memorial
□小儚青炎
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もやもやと黒い渦が身体中を支配し胸の奥が酷く痛んだ。ギュッと握りしめた手が白んで細かく僅かに震えていた。
そうしたくなんて微塵も思っていないのに今見た光景が何度も何度も甦る。ありえない、あってほしくない。何でそんな現場をよりによって自分の目で見てしまったのか。淡い希望も持てないじゃないか。
自分の机に腰掛けて顔をあげれば雪男の制服とコートが目に入った。あいつの顔が浮かんで悲しさが込み上げる。
この部屋で雪男を待つには今はつらすぎて俺は部屋をあとにした。
******
部屋には兄さんの姿はなくて少しだけ開けられた窓からはこの時期にしては冷たい風が吹き込んでいた。
くしゃくしゃになったプリント、乱暴に斜めになった椅子、床に落ちたシャーペンや消しゴム。それらを見るだけで兄さんの行動が見えてくるようだった。
彼女と別れてそのまま自分の部屋まで上がって来たから建物の外へは出ていないはず。
─兄さん。
何故そこまで心を乱してしまったのか。
何故部屋にいられなかったのか。
僕にはわかるようでわからなかった。
慌てて部屋を出た。
放っておけない、傍に行きたい。
料理しているのか微かに食べ物のにおいがする。階段を駆け下りて厨房まで走り抜けた。
「兄さん」
厨房のカウンターから身を乗り出して声を掛けるが反応はなかった。
「兄さ...」
「何だよ」
振り向かない兄さんの声は聞こえないくらい小さくて思わず厨房内へ踏み入れようとするとまた小さな声がそれを拒んだ。
「来るな」
「え?」
「来るなってんだよ」
背を向けられたまま出される声は怒りと悲しみを含んでいるようで、どうにか顔を見たかったけどそれはかなわなかった。
「....一人にしてくれ」
「だってほっとけないだろ」
「嘘ばっか言うな」
「何で嘘つかなきゃならないんだよ
」
「裏でこそこそいかがわしいことしてるからじゃねーの?」
「何それ?」
「俺なんかどうでもいいんだろ!彼女んとこにでもいっちまえよ!」
怒りに任せて青い炎が一瞬ふわっと兄さんの回りに浮かんで消えた。それは今まで見てきた勢いのあるものではなくて小さくて危ういもの。
「何か勘違いしてない?」
僕は兄さんに向かって歩みを進めた。
「来るなって言ってんだよ!おまえのこと怒りまかせに燃やしちまうかもしんねーぞ!」
「僕のこと嫌いになったのなら燃やせばいい」
「やだっ!来るなっ!」
無理矢理に捕まえて抱き締めた瞬間、青い炎が僕らを纏った。
*