memorial

□behave like a baby
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「うー、遅い」


今日はそんなに遅くならないって言ってたのに。確かに晩飯は先に食べてていいとは言ってたけど。
珍しく課題も一人で済ませて明日の準備も万全だ。


「うぉー!ひーまーだーっっ」


クロも日課の散歩に行ってしまったし、雪男のSQもとっくに読んでしまったし。
もう寝ちまうかとベッドにごろんと寝転がると机の上の携帯が鳴った。


「はい、おくむ......」

「おー、燐かぁ?」


だらけきった声が耳に届くと自然にため息が漏れる。
こいつ、そのうち酔拳でも繰り出すんじゃねぇか?


「シュラか?また飲んでんのかよ」

「あたいのお楽しみなんだからいいだろーが」

「で、何の用だ?」

「えーと、何だったかにゃ?」

「......切ってもいいか?」

「怒んなよー、雪男だ、雪男」


まさか...。
嫌な予感しかしない。


「一緒なのか?」

「今は違ーう」

「じゃ一緒だったって事か?」

「そうそう、あいつベロベロになっちゃったからさぁ。介抱してやれって言おうと思ってにゃー。」


やっぱりだ。


「おまえいい加減にしろよ、未成年に酒盛るな!」

「だってさー、あいつストレス溜めてっからさー。あとはおまえが優しくしてやればいいんじゃ...」

「わかったよ、探してくるから切るぞ」


電話を切ってジーンズのポケットに突っ込むと慌てて靴を履こうと扉に向かう。


ドスッ、ズズッ、


扉のすぐ外で変な音がして慌てて開けてみると扉の脇に俯いて座り込む雪男がいた。


「雪、男?」

「......」

「おい、大丈夫か?」

「......」


よっぽど具合が悪いのかと覗き込んで肩に手をつくとゆっくりと顔が上がる。
顔は真っ赤で目はとろんとしていて何故だか困ったように眉間に皺を寄せていた。


「具合悪いのか?」


力なく首を横に降る雪男は黙ったまま。


「とりあえず部屋入ろう」


腕を肩にかけて立たせると半分引きずるように部屋に入る。靴を脱がせてベッドに座らせたがまだ俯いたまま。


「何か嫌なことされたのか?」


やっぱり力なく首を横に振るだけで、とりあえず水でも持ってくるかと足を扉に向けると雪男の手が俺の腕を掴んだ。


「怒ってる?」

「あ?」

「怒ってるでしょ?」


見上げてくる顔は悪いことをして叱られる時の子供のようでちょっとだけ小さい頃の雪男を思い出す。


「何でそう思うんだ?悪い事したって思ってんのか?」


もう一度雪男の前にしゃがんで真っ直ぐに目を見るとそらされてしまう。


「おいっ、こっち見ろ」

「......思ってる、二回目だから」

「なんだ、わかってんじゃんか。わかってんならもうやめとけよ」


今日は素直だな。
酔っていても二回目だって意識はあるみたいだし、最初から怒るつもりなんて無いけど。

ポンポンと頭に手をおいて立ち上がると腹の辺りにがっしりつかまってぎゅうぎゅうと力任せに抱き付いてくるから困ってしまう。


「どーしたよ」

「行かないで」

「喉乾いてんだろ?水持ってくるだけだって」

「やだ」


やだって...。
飲んで来ると決まって甘えたり毒吐いたり...愛しいと思えたり面倒だったり。
こいつの扱いは難しい。


「じゃいらねぇの?おまえのミネラルウォーター冷蔵庫にあんのに」

「いる」

「だったら持ってきてやるから離せ」

「やだ」

「ぐぁっ!どっちだよっ!!」

「ミネラルウォーターは飲みたいけど離れたくない」

「いつになくワガママ言ってるぞ」

「にーさんのワガママをいつも聞いてあげてるのはボクなんだけどねー」


こうなったらおまえのワガママ聞いてやろうじゃねぇか。


「雪男、離せ」

「やぁだ」

「おんぶしてやる、だから離せ」


雪男の腕が素直に緩んで、前にしゃがんで背中を差し出してやるとぽすんと乗っかってきた。


「ちゃんと掴まってねぇと落ちるぞ」

「うん」


腕が首に回されて甘えるように雪男の頬が俺の頬に触れる。
ずり落ちそうになるのを一度持ち上げてしっかりつかまえると扉を開けて薄暗い廊下を歩き出した。


「ガキの頃、よくこうやっておんぶしたよな」

「そーだっけ」

「そーだろ。こんなでかくないし酒臭くなかったけど」

「にーさんはちっちゃいけど」

「ちっちゃくねーだろっ!普通だろ!」

「ぷくく」

「ったく、いつからこんなふうになったのかね」

「悪かったね、可愛くなくて」

「可愛いぜ、こうやって甘えてくるときは昔と変わんねぇし」


くっついていた頬の熱が更に増して肩に顔を埋めてしまう。歩くたびに揺れる髪が頬に当たってくすぐったい。


「何恥ずかしがってんだよ」

「変なこと言うからだろ」

「可愛いなー、おまえ」

「可愛いって嬉しくない」

「っくく。ほれ、着いた」


食堂の照明をつけて雪男を椅子に下ろすと、厨房の奥にある冷蔵庫に向かいミネラルウォーターのペットボトルを取り出して雪男の元に戻った。
蓋を開けて手渡すと口をつけてペットボトルを斜めに持ち上げる。喉が上下に動くのから目が離せなくてじっと見詰めた。


「なに?」

「別に」

「なんか目がやらしい」

「はっ?それはおまえだろっ!」

「あー、大失敗」

「え、何が!?」

「口移しで飲ませてもらえば良かったなー」

「この酔っ払い」

「酔っ払いで可愛いボクが好きなんじゃないのー?」

「......もー、戻るぞ」


もう一度おぶって部屋に戻ろうとすると、雪男は冷蔵庫を指差してもう一本持っていくと言った。
雪男をおぶったまま冷蔵庫から取り出したもう一本をぶら下げて食堂の照明を落とした。






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