memorial

□君を思う。
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とても名残惜しいね。
だけど
君の持つ才能は
君が開花させるものだよ。
悔いのないように生きなさい。


13のときに祓魔師の資格を得てからずっと雪男を知る老齢の男はそう言いながら向かい合った肩にポンと手を置いた。
穏やかでいて少し寂しそうに、でも雪男の語った夢に目を細めて、後押しするような言葉をくれた。父である獅郎が生きていたなら同じような言葉をくれたのではないだろうか。
挨拶回りはこれで最後。扉を静かに閉めてふぅと息を吐き出した。


今日、雪男は祓魔師を引退する。


燐を守るために必死になって今までやってきた。苦しい訓練や積み重ねた知識、苦戦した悪魔召喚、今となってはどれもが通ってきた道の一部で自分を成すものの一つになっている。だが苦しいことばかりではなかった。だんだんと覚えたことが身になり、訓練を重ねてきたことが上達し成果が見えたときは嬉しかったし、何より次第に自分が強くなっていくように思えたのだ。
ただ一つの目標は、燐に関わる全てのものから「兄を守る事」だった。自分の事はどうなってもそれを最優先させて生きてきた。命を懸けることさえいとわなかった。だがそれももう必要はない。


「雪男!」


振り向くとピョンピョンと跳ねるように駆けてくる燐が手を振っていた。
駆けていた足がリズムを変えて大きく一歩踏み込むと地面を強く蹴って勢い任せにその身体が高く跳んだ。


「受け止めろ!」
「な、ちょっと!」


思わず伸ばした腕に燐がすっぽり収まって首にまわされた腕がぎゅうっと絞め付ける。
ぐぇ、と変な声が漏れた。息が苦しくて抱き付いている背中をばしばしと叩くと気が付いた燐は腕の力を緩めて雪男の頭をがしがしと撫でなからにっこり笑って額を合わせてきた。コツンと痛くない程度に肌が合わさり近すぎる距離に相手の表情はぼやけている。


「寂しくなるな」
「いつだって会えるじゃない。死ぬわけじゃないんだから」
「そういう意味じゃねーよ」
「じゃあ何?」
「闘うカッコイイ雪男が見れなくなんだろ」


恥ずかし気も無くそんなことを言うから思わず目を逸らしてしまった。カッコイイと思って見ていてくれたのかと思うだけで嬉しくも恥ずかしい。


「僕がいなくてもしっかりね」
「わかってるって」
「無謀なことはしない」
「出来ればな」
「報告書も溜めないで」
「...出来ればな」
「それから一人でもちゃんとご飯食べてよ」
「それおまえが言うかな」


確かにそうだった。
色々心配の言葉を並べてみても本来大丈夫ではないのは燐ではなくて自分の方なのではないかと気が付いたのだ。「守る」という概念に隠れた燐への依存が表立って行く手を阻むような気がした。


「医者になるんだろ?」


色んな気持ちが混じり合って複雑な顔でもしていたのだろうか。下を向きかかっていた視線を戻すと燐はニカリと笑った。


「寂しくなったら呼べよ。会いに行ってやる」


な!と肩を叩く両手の力は半端無くて痛いくらいだ。


「呼ばないよ」
「可愛くねーな」
「可愛かったらキモチ悪いでしょ」
「...そうでもねーよ」
「......」
「とにかくだ!夢叶えてこい!おまえはできる子だと兄ちゃんは信じてるぞ!」


いつまでも兄風を吹かせたがるのが自分の固まった部分を溶かしてくれる。いつでも兄さんだけは味方でいてくれる、待っていてくれる。帰れる場所があることに感謝をして、雪男は最後に残ったバッヂを燐に託した。


「これ、頼むね」
「おぅ.....いつでも電話してこい!」
「兄さんが寂しいんじゃない」
「寂しくなんか、......ねーぞ!」


下唇をぎゅっと噛んで目の縁を赤くして、それで寂しくないとか説得力が無さすぎだ。雪男は肩に掛けていた荷物を床に置いてから左手で燐の手を引いた。一歩前へ出た燐の身体を抱き締めてその暖かい首元に顔を埋めた。


「いつも兄さんを思ってるよ」
「俺も、思ってる」


お互いの背中に回っている腕に同時にぎゅっと力が入った。慣れ親しんでいるこの温もりとも暫しのお別れだ。くっついていた身体を名残惜しく剥がして別れ辛くならないようにお互いに笑顔を浮かべて前向きな言葉を発した。


「どうせなら試験トップ通過な!」
「...努力します」
「頑張れよ」
「うん、じゃあ、いってきます」


雪男は燐の手を離した。
お互いが違う道を進み始める。 寂しいけれどそれだけではなくて二人は今まで無かった何かを築き始めていた。
燐は離れていく雪男の背中を眺めて再び思う。


「俺も、おまえを思っているから」





end



*****



りっちゃんへ。


1年5ヶ月の間、沢山の幸せをりっちゃんからもらいました。素敵なイラストも沢山沢山戴きました。思い出がいっぱいすぎて閉鎖はとても寂しいです。ですが
いつまでもりっちゃんが大好きでりっちゃんのファンです!という私のキモチを奥村駄文に重ねてみました。うまく伝わるか私の文章では不安しかありませんがまた押し付けて置いていきます。

今までお世話になりました!
最後に表紙お願いできてよかった!
そしてありがとうございました(^_^)
ずっとずっと大好きです!!!!!




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