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□Sakura
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もうすぐ春休み。
いつも一緒にいるようで一緒にいないことの方が多いから、こういう長期の休みの時はあれやこれやと一緒にやりたいことを頭の中で予定立る。
連休が目前に迫る時の俺の癖だ。
それにあれだ。
春ってわくわくする。
暖かくなって出掛けるにはいい季節だろ?
二人で出掛けることなんかたまの食材の買い出しくらいしかないからなぁ。
あいつ意外に出不精だし。
そうだな......花見!
俺、桜大好き。
あぁ、学園の近くに桜のいっぱい咲く広い公園があったっけ。
弁当持ってちょっと遊べるアイテム持っておやつ持ってレジャーシート持って。
それで行けば完璧じゃん!

頬杖を付いていた手を解放して目の前にあるペンを握りノートにカリカリと頭の中に浮かんだ内容を書き出していく。知らず知らずのうちに普段はあまり発揮されぬ集中力を最大限に活かして白い紙は文字や絵で埋まっていった。

雪男の予定をさりげなく聞いといて当日まで黙っていようか。
あいつがビックリするような弁当作ってそれを差し出した時の顔が目に浮かぶようで自然と頬が緩んでしまう。誰もいない部屋で気持ち悪いなと緩んだ頬を撫でるけどどうにも元に戻らない。


「随分楽しそうだね」

「ひっ!」


すぐ近くからした声に自分でも笑ってしまうような声が出た。
いつもいつも気配を感じさせずに接近していることに毎回ながら寿命が縮まる思いだ。雪男曰く悪魔の寿命は長いからそのくらいがちょうどいいってのもあながち間違っていないような気もするけど。


「ビックリさせんなって」

「二回もただいまって言ったのに気付かないのはそっちでしょ?」

「えっ、まじ?」

「まじだよ。珍しく集中してると思ったら勉強じゃないみたいだし...」


いつものように溜め息を吐かれ後ろの高い位置から見下ろされて慌てて書き途中の紙を裏返した。内容もしっかり見られていたのだろうか?


「見た?」

「さぁ、どうかな?」

「見たんだろ?」

「見られちゃまずい事書いてたの?」

「まずくは......ない」

「へぇ。じゃあ教えてよ」


にっこり笑うこの笑顔にいつもいつも負かされてきた。雪男もそれがわかってるからこの技を使ってくる。


「ねぇ」


それでもなかなか口を割らないとこうだ。さっきよりも身体を密着させて耳元でわざと艶っぽい声を出しやがる。どこでこういうことを学んでくるのか兄ちゃんは心配でならないんだぞ。


「えぇと」

「うん」


話してくれると踏んだ雪男はこれ以上ないくらいの笑顔。至近距離で見てしまったら逆らえるわけがない。俺は諦めて考えていたことを素直に話すことにした。


「......花見、行かねぇ?」


満点の笑顔が鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔に変わった。次に眉間に寄る皺が雪男の中に生まれた疑問を投げてくるようで俺は首を傾げた。


「何かおかしいか?」

「まだ桜の時期には早いよ」

「今じゃなくて春休みだよ。一日くらい休みあんだろ?」


裏返してあった紙を表側に戻して雪男の目の前にぴらぴらと揺らしてみた。紙の両端をがしっと持って自分の方へ引き寄せて穴が開くほど見つめる雪男。そんなに必死になることか?


「兄さん」

「ん?」

「僕、春休み遠征決まっちゃったんだよ」

「遠征?」

「うん。学校も塾も休みになるから僕にはうってつけの任務でしょうって理事長から今日命じられたばっかり」


てことは何か?
春休みの間、雪男と遊べないどころか顔も見れないってことなのか?
あのピエロ、わざとだろ。理事長の職権乱用しやがって。
今度は俺の方が豆鉄砲食らっちゃっただろうとポカンと開いていた口元はひくりとひきつった。






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