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□チョコと赤いプレゼント
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今日の兄さんは至れり尽くせりだ。
勉強関係は別としていつも家事には協力的だがここまで言うことがないとちょっと調子が狂ってしまう。
帰ってまずお風呂とご飯、どちらを選択しても大丈夫なように準備は完璧、部屋は掃除済み、洗濯物までちゃんと畳んでしまってあった。感心感心、と言ってやれば嬉しそうに尻尾を揺らす。今日はバレンタインデーだから、ということか。


「ねぇ」


呼べば上機嫌な笑顔で振り返る。何なんだ、ちょっと可愛く見える。これじゃ浮かれている兄さんにつられて僕まで......いやいや。


「誰かからチョコ貰ったから?」


わかってるけどわざと違うところをついてみる。意地悪に笑ってみたけどその反応は思っていたものと違って、椅子の後ろ足に体重を掛けてぐらぐらと揺らしては天井を見ながら指を折り出した。一本、二本、三本......あれ、まだ続くのか?


「10個」

「え?」

「だから、10個貰った」


10個だと?全部が本命じゃないにしたって想像していなかった数だ。ていうか、その中に本命はあるのか?意外な現実を突き付けられて僕の頭は軽くパニック状態だ。全く僕を見ていない兄さんは机の上に貰ってきた代物を並べていく。僕はそれに引き寄せられるように兄さんの横に立ち尽くして呆然ときらきらと輝くラッピングをされたチョコの数々に目を奪われていた。


「ほぅら、ホントだろ?」

「嘘だなんて言ってないよ」

「信じられないって顔してんのに?」


くくっと笑って面白そうに下から見上げられるとまるで心の中を見透かされているようで慌てて自分のテリトリーへと足を向けた。だってそうだろ、兄さん主導で進みそうな雰囲気に内心狼狽える自分、出来ればここから離れたい。


「おい、逃げんなよ」

「逃げてなんかないよ、やることが沢山あるだけ」


足早にそこから離れて自分の椅子に腰掛けた。やることが沢山あるのは事実、兄さんが言うように逃げているのも事実。自分が思っていたよりも自分に自信を持てていなかった事、兄さんの心に揺らぎがあるんじゃないかと信じてやれずに矛先を兄さんに向けた自分が情けなくてギリと口内の皮膚を傷付けると少しずつ血の味が広がるのを感じた。






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