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もごもごと口を動かす兄さんをじっと見つめる。横目でそんな僕を見て片眉をあげると途端に激しく咳き込んだ。


「くほっ、ごほっ...」

「大丈夫?.........!!」


身体を折り曲げて咳き込む兄さんに駆け寄り背中を撫でてやるとその背中はずんと小さくなった。目の錯覚かと思ったけれどそうじゃない。 肩も小さく、触れている身体は柔らかく変化していく。


「兄さん、...ごめん」

「こほっ......え?」


咳が治まってから自分が出した一文字の音に耳を疑うように僕の顔を見上げた。その顔は紛れもなく女性だが兄さんの特徴は随所に残っていて性別が変わるとこんなふうな感じなんだと無意識に考えていた。それに引き換え兄さんは高くなってしまった声を出すのが怖いのか躊躇うように唇が震える。


「ちょっとの間だけだから」

「......何が......!?」


ぱっと口に当てられた手と僅かに揺れる潤む瞳。みるみる顔色は青ざめて、すがるような目付きに胸がどくんと疼く。


「大丈夫だよ、目的を果たしたら元に戻してあげる」

「......何でこんなことすんだよ」


僕は答えずに肩から滑り落ちそうなシャツを直し、はだけていたボタンを止めて床に投げ捨ててあったパーカーを羽織らせた。


「おいっ、何でだって聞いてんだよ!それに寒くねえし!」


いつもの口調も女の子の声では印象が違う。それに一回り小さくなった身体といつもの兄さんよりも少しだけ柔らかくなった目で睨まれても迫力の欠片も無い。


「身体は女の子なんだよ。下着だって着けてないんだから目のやり場に困るだろ」

「な.......!!!」


一気に真っ赤になった兄さんは急に胸の辺りを意識して着ているものの前をぎゅっと手繰り寄せた。


「おまっ!俺の身にもなってみろよ!何なんだ!」


半分泣いているような顔で怒鳴る声が寮に響く。兄さんの気持ちもわからない訳じゃない。確かに自分が同じことをされたら今の兄さんのように怒るだろう。


「騙したのは悪かったと思ってるよ、でも...」

「俺が男だからこんなことすんのかよ」

「え...?」

「女の方がいいからか?」

「何言って...」

「......もういい、わかったから」


言葉の勢いは急に落ちて力なくベッドの端に腰を下ろした兄さんはそのまま後ろに大の字になって寝転んだ。しんと静まり返った空気は長ければ長くなるほど息をするのも辛くなる。


「何がわかったの?」

「だからもういい」

「よくない」

「今はほっといてくれってんだよ!」


ごろんと横向きに背を向けられて、こんな時ばかりは兄さんの言ったら聞かない性格が違ったならと思ってしまう。でもそれがなければ兄さんでなくなってしまうのだが。
きっと怒るんだろうからと足音を立てずに近付いて小さな背中の隣に腰を下ろした。ビクッと身体が揺れたがそれ以上の反応はない。


「まったく...何でそう頑固なの?」

「......おまえなんかキライだ」

「...じゃあこれから話すことに納得いかなかったら直ぐに元に戻すよ。こんなことしたのが許せないなら罰も受ける」

「......」


兄さんに触れないように身体を伸ばして手の中にある青いキャンディーを反対側を向く顔の前にそっと置いた。






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