main2

□2
1ページ/2ページ



塾での授業の合間、今日一日探し続けたものを見つけた。ちょこちょこと廊下を歩く小型犬、その後を歩く。それに気がついた相手は足の回転を幾分か早くしたが人間の歩幅に叶うわけもない。幾度も振り返ると廊下の角を急角度でくるりと曲がった。慌てて僕も歩みを早めて同じ角を曲がると長身の理事長の胸が目の前にあった。


「私に何かご用ですか?」


細めた瞳が僕を見下ろす。体制を整えて一歩下がると眼鏡のブリッヂをくいっと上げた。


「最近随分と授業でお見掛けするので何か気になることでもあるのかと思って聞きたかったんです」

「生徒の皆さんが真面目に授業を受けているか見に来ているだけですよ」

「そうですか?僕にはいつも奥村くんの傍にいるように見えていたんですが」

「奥村くんが一番の心配の種ですから当然でしょう?」


ニヤリと笑う表情は何か楽しんでいるようでまだ何か自分の知らないことがあるのではないかと勘ぐりたくなる。


「.....それだけですか?」

「といいますと?」

「何かしませんでしたか?」

「はい、しました☆」


あっさりと笑顔で白状した理事長を見て頭痛がしてきた...やっぱりだ。


「さすが奥村先生、勘が鋭い!」

「あの...夢を操ったのですか?」

「はい、ばっちりもう眠くならないような夢を。効果は抜群だったようであれ以降居眠りはしていません☆」

「居眠りは無くなったかもしれませんが、少し精神的にダメージがありましたよ」

「おやおや、それは興味深い」


顎髭を撫でながらずいっと近付く顔を思わず睨み付けると指一本で顎を上げられた。


「貴方はお兄さんの事となると目の色が変わりますね。だからついちょっかい出したくなる」

「ほっといてください」

「そうそう、その挑戦的な目。とても私好みです」


見つめられる瞳の色がぼうっと紅く変わったような気がした。背筋がぞくりと寒くなる。


「僕を口説いてどうするんですか」

「悪魔の取り扱いを手取り足取りお教えしましょうか?」

「......」

「冗談ですよ」

「冗談に聞こえませんよ」

「まったく、真面目な方ですね...で、私にどうしろと?」


離れていく距離に内心ほっとしながら考えていた内容を理事長に話すと、自分にも責任があるからと快く了承してくれた。随分突飛な提案だったにも関わらず驚きもせずにニヤニヤしていたのが気にはなったのだが。もしかしたら僕がそう言い出すのも想定内のことだったのかもしれない。

僕は手渡されたものをコートのポケットに忍ばせて足早に帰路についた。






*
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ