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□俺が、僕が、願うこと1
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白い花の飾られた長椅子。
通路のわきは白いリボンが飾られ赤い絨毯が長く敷かれている。

上部にあるステンドグラスからは柔らかな色が光を放ちそこにいるひとりの男性に降り注ぐ。

オルガンが奏でる音が耳に心地いい。

白い衣装を着た彼は扉の開く音がしてからゆっくりとそちらに向き直す。
開け放たれた扉の向こうには純白のドレスに身を包んだ女性が立っていた。

白いマリアベールが俯き加減の彼女の顔を隠しているが色は白く華奢な腕が伸びた先には美しい白と淡いグリーンが少し入ったブーケが握られている。

少しずつ進む彼女を、優しく目を細めて見る彼の顔は幸せに満ちている。

ゆっくり、ゆっくりと彼と彼女の距離が縮まる。

彼の元まで進むと僅かに上げられたその腕に彼女の腕が絡み、お互いしっかり見つめ合いとても幸せそうに微笑んだ。






──ドスッ。

ぱちりと目を開けると目の前には見慣れた悪魔薬学で使う分厚い薬草辞典が乱暴に置かれている。
席の前に立っている黒いコートを見上げると冷たい目をした雪男がじっと見下ろしていた。


「やる気が無いなら出て行ってもらって構いませんよ」

「......」

「奥村くん?」

「...すみません」


雪男の顔を見た途端、ずんと胸がへこむような感覚が襲った。謝罪の言葉が俺の中にある隠してあった感情と重なる。


─ただの夢だろうが...。


膝の上に座っていたピンクのスカーフをした可愛らしい犬がフンと鼻を鳴らす。
俺はふるふると首を振って広げてあった教科書を睨んだ。





******






『りん!りんったら!』


どれだけぼうっとしていたのだろう。クロが体当たりで俺の足に突撃していた。


「う、あぁ、何だ?」

『 こげてる!さかなこげてるぞっ! 』

「おわっ......!!!」

『...それ、たべられる?』

「ごめん...今日は一品少なくなっちゃうな...」


何やってんだよ、まったく。
真っ黒焦げ...いや、炭と化した秋刀魚を一応皿に乗っけてみるがやっぱり食べるには体に悪そうで皿を手にしたままハァッと盛大にため息をついた。



『りん、どうしたの?なやみごとか?』

「あ、いや、大したことじゃ...」

『おれ、きいてやるぞ』

「んー、......あのな」


足元できちんと座って首を傾げているクロの目線に合わせて俺も床に座り込むと夢の話をぽつりぽつりと話し出した。

結婚式の主役の新郎は雪男だったこと。相手の新婦は俺と同じ青い目をした人だったこと。
二人は幸せそうに笑い合っていたこと。
......俺の胸が痛んだこと。

聞いてもらっているうちに自分がすごく女々しく感じられてしまって吐き出す言葉が恥ずかしく感じ出すと唇をきつく噛むしかなかった。


『おれもけいけんあるぞ』

「そうなのか?」

『うん。りんはゆきおがだいすきだからだれかにとられちゃうのがこわいんだろ?』

「そんなことねえよ...」

『ゆめみるくらいしんぱいなんだな』

「だからっ、そんなことない!俺は兄ちゃんとして、その...雪男が結婚したいって人が出来たらちゃんと祝福するんだっ!」

『そうか?』

「そうだぞ」


雪男が結婚したいって人が出来たら。
本当に俺はちゃんと祝福出来るんだろうか。
そう思うのは、たったひとりの家族が他人のものになってしまうからか。愛している人を失ってしまうからか。それとも一人になるのが怖いだけか。
そんな日がいつかくるかもしれないと思うだけでざわつく胸が更にぎゅっと濃度を増すように冷たい痛みとなって締め付ける。


「クロ、飯置くぞ。あちーからな」

『りんはたべないのか?』

「腹減ってねーから先に部屋行くな」


俺はクロの分の飯を用意して早めに部屋に戻ることにした。






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