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□22exorcist 1
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正十字学園町にある森林公園。
最近の僕の居場所だ。
何もせずに、ただ、居るだけ。


「雪ちゃん」


水鳥が泳ぐ水面から視線をはずして振り返れば着物姿のしえみさんがにっこりと笑っていた。


「最近ここで見かけるって聞いたんだ。この公園広くて探しちゃった」


僕の横に来て手摺に手を掛けた。回りの木々を見て「紅葉ももうすぐだね」なんて他愛もない話をしてくれる。


「理事長に言われて来てくれたんですか?」

「ううん」

「じゃあ兄さん?」

「ううん、違うよ。私が雪ちゃんに会いたかったの」

「...どうして僕のことなんか」

「雪ちゃんが大事だから」


彼女も今では祓魔師として働く仲間で有能な手騎士として活躍している。任務で忙しいはずなのに僕の所へ... 出会った頃から変わらない。この優しさに救われたのは何度目だろう。


「今日は着物なんですね」

「終日お休みもらったから。...ねえ、雪ちゃん」

「はい?」

「お昼ご飯食べた?」

「いえ...」

「じゃあ一緒に食べよう!サンドイッチ持ってきたの、お母さんが作ったんだけど」


「あっちに芝生があったよ」と手を掴まれてほぼ強制的に引っ張られていく。しえみさんの手は暖かくて僕の手の冷たさに侵食されてしまわないかとぼうっと考えていた。


「雪ちゃんはそっち持ってね」


用意してきてくれた小さなレジャーシートに並んで座って僕らの間に持ってきてくれた昼食を並べてくれた。
薦められて口へ運ぶと柔らかなやさしい味が広がった。


「どう?美味しい?」

「ええ、とても美味しいですよ」


笑顔で返せば花の咲いたような笑顔が返ってくる。しえみさんは足を伸ばしてぽつりと呟いた。


「燐も一緒ならもっと美味しかったのにね」


くるりとこちらに向き直って僕の手はしえみさんの両手に包まれた。


「帰っておいでよ、雪ちゃん」

「僕には居場所なんて無いですよ」

「雪ちゃんを責める人なんていないよ。そんなふうに自分を追い込まないで」

「兄さんの顔だってまともにみれないんです......もう、怖いんですよ」

「...雪ちゃんらしくない」

「......」

「雪ちゃんの気持ち、わかるけど、雪ちゃんらしくないよ」


僕はこうやってみんなに気を使わせてみんなに迷惑を掛けてる。
そんなこと、わかってる。

でも、何をすればいいのかなんてわからなくなってしまったんだ。





******






「......雪男」


遠くで呼ばれるような感覚。


「おい、雪男、起きろ」


肩を揺さぶられると浅い眠りから現実へと引き戻された。ソファで横になっていた程度だから身体の疲れなどとれてはいない。


「呼び出し掛かった。おまえも一緒にって言われたんだけど、あんま寝てねえだろ?」


祓魔師のコートをばさりと羽織りながらこちらを向く兄さんの頭は寝癖が酷い。
任務を終えて帰ってきたのは早朝、今は昼くらいだろうか。


「今何時?」

「7時」

「...大丈夫、行くよ」


まだ朝だったのか。30分くらいしか眠れていない。
まだ沈んでいたい身体を無理矢理起こしてテーブルに置いてあった眼鏡に手を伸ばした。


「最近無理してるし、今日は任せてくれてもいいんだぞ」

「大丈夫だよ、兄さんに任せて休んでるなんて気が気じゃないし。一緒に行く方が断然マシ」

「俺だってもう七年も祓魔師やってんだぞ、過保護だろ」

「兄さんの場合、過保護なくらいがちょうどいいんじゃない」

「けっ、言ってろ」


兄さんは立て掛けてある姿見鏡に向かって何度も髪を撫で付けている。僕もコートを羽織って銃を腰に装着した。


「ブラシ使う?」

「おう、サンキュ」


兄さんの後ろにたって僕も身だしなみを整えた。それにしても疲れたような自分の顔。大丈夫やれると暗示をかけて両手でばしばしと頬に気合いを入れた。


「くっそ、直んね」


もともと癖のある髪だけど一部分だけ妙に反発した寝癖が可愛らしい。思わずプッと笑えばムッとした顔で抗議しだす。


「笑うな」

「寝癖まで兄さんみたいで笑える」

「あーもう、間に合わねぇ」


肩には倶利伽羅を掛けて腰からじゃらじゃらと鍵を取り出した。扉を開けると冷たい風が吹き込み兄さんの髪が揺れる。


「行くぞ」

「うん」


薄雲のかかる三日月が湖面を照らす。
僕らは地方にある古城へと踏み入れた。






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