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□僕らのところへ
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「なぁ」
「何?」
「これ...チョーはずいな」
「......うん」


神父さんから送られてきた荷物の中に一緒に入っていたDVD。昔撮ったビデオテープを編集し直して新たに作ったから見てみろと書かれたメモに従って今二人はテレビの前に座っている。「昔撮った」ということは必然的に自分達の幼少期の映像が録画されていることが容易にわかった。「んじゃ見てみっか」「そうだね」と軽い気持ちでいざ再生してみたが、燐は体育座りの膝を抱える腕を強張らせ雪男はミネラルウォーターを口の端からこぼしそうになった。そこには信じられないほど小さくて、仲良しで、意地らしくて、お互いを想い合う自分達がいた。見ようによっては今よりずっと仲睦まじく見える。当時の相手の事はよく覚えていても自分がどうだったかなんて記憶はあやふやだ。だが客観的に過去を見る機会を与えられるとどうにも新鮮でいて恥ずかしい。


「なんか、あれだね」
「あれってどれだよ」
「兄さんが僕の事好きすぎる」


テレビの画面を見ていた目だけを横にずらすと顔を赤くした燐がキッと睨み付けてくる。


「おまえ弱っちーから心配してただけだろ!」
「あぁ......そっか、そうだね。僕泣き虫だったし」
「......いや、違う、...そうじゃなかった」
「?」
「俺兄ちゃんだし、雪男のこと......だから、構いたかったっつーか...」


肝心なところがごにょごにょと小さくて聞き取れない。それでも燐が何を言いたかったのかその表情を見れば一目瞭然で雪男は目を細めてまた画面へと視線を戻す。


「こんな子供がいたらいいな」


頬杖を付いて微笑む優しい碧色の眼差しが画面を見つめている。
だから燐は考えた。
悪魔は男であっても子供を授かることは可能なのだろうか。
雪男なら知っているだろうか。
燐は雪男の横顔を見ながら気持ちを高ぶらせた。


「......だったら作ればいいだろ」


ぼそりと呟いた声に素早く雪男が反応した。


「......俺と」


また決定的な恥ずかしいことをぼそりと呟いた。
馬鹿なこと言うなって怒るだろうか。それとも何言ってるのって軽くあしらわれるだろうか。
言ってしまった後に後悔の波が押し寄せて穴があったら入りたい状態だ。束の間の沈黙が居たたまれなくて、ふざけたんだと言ってしまおうと意を決した時、


「なんちゃっ......!」


顔を上げた途端に長い腕がぎゅうっと絡まった。頬に触れた頬がすごく熱い。


「......知らないからね」
「へっ!?」


抱き締められたままその場に押し倒されて真正面から熱視線を送る雪男が物凄く艶めいて見える。


「子作りしようか」
「な、今!?」
「そう、今すぐ」


今すぐ、そんなこと言われたのは初めてで面食らっている間に触れた口付けはどんどん深くなっていく。甘くて柔らかくて溶けてしまいそうになる。何度も何度も重ね合わせて次第に頭がぼんやりした。


「うっ......わあぁぁぁぁぁん!!!」


突然の泣き叫ぶ声に二人はびくりと肩を震わせ同時に流れたままの画面に目を向けた。泣いているのは小さな雪男でその頭を燐が撫でて一生懸命に慰めている。


「子供が出来たらこうやっておあずけくらうのかな...」


それはちょっとやだな、と困ったように雪男が笑う。燐はリモコンをテレビに向けて電源を落とした。


「寝かし付けてからでいいじゃん、待ってられねーの?」


青い瞳が妖艶に笑う。たまに見せるこんな悪魔的部分もまた雪男を惑わせて溺れさせるのだ。待っていられない、そうとは言わずにひょいと燐を抱き上げて別室に向かう。雪男に絡まる腕と尻尾がとても愛しくて嬉しかった。






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