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□大好きで、ごめん
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自覚してからは驚くほど大きくなる想いに自分自身でも戸惑っていた。
今までだって、愛しくて何よりも大事でなくてはならない存在だったのに、それに加えて何か違うものがぐるぐる渦巻いて心を掻き乱す。
胸の真ん中が暖かいのに苦しくて痛くて丸まっしまいたい。
毎日毎日どうしてなんだと自分に問い掛けた。
「兄さん?」
不意に呼ばれた声さえも、いつもと同じはずなのにとても好きだと思ってしまう。
一旦心を落ち着けようと閉じた瞼の裏にも無意識なはずなのによく知った影が近付いては優しく微笑んでくる。
少し感傷に浸ってしまった今、雪男には悪いが放っておいて欲しいと思ってしまった。
逆に「課題は終わったの?」とか「僕の漫画は?」とか、いつもみたいに小言を投げ付けてもらいたいくらいだ。
そうでなければ、雪男の兄である俺を保つことは出来そうに無い。
「何でもねえよ」
突き放すような口調とは裏腹に思っても見ない様な情けない声が出た。小さく絞り出す強がりが雪男の心に引っかかってしまうのが目に見えている。精一杯普段通りを装ったつもりだったのに最高に格好悪い。こんな自分は絶対に晒したくなかったのに。
「......どうしたの」
離れたいと思っているのに雪男は近付いて、振り向いたらすぐ手が届く距離にいる。近すぎる間隔に戸惑いながらも俺の胸の鼓動は高まっていた。
背後の声はすぐ近く。
心配そうに歪む顔が声の様子から容易く想像出来た。
もし兄弟でなかったなら、
もし男でなかったなら、
もし悪魔でなかったなら。
雪男という一人の人間を好きになった自分を誇りに思えたのだろう。
雪男との距離に、声に、あの笑顔に素直に幸せを貰えていると喜んだのだろう。
それは片思いであっても許されるものだから。
「こっち向いて」
雪男のあたたかい掌が肩から腕を撫でてくる。
こうやっていつも甘やかすから俺は勘違いをしてしまう。期待する心を育ててしまう。
俺はこいつの幸せを願わなければならない。
好きだから、大好きだから大事にしなくてはならない。
だけど悪魔の俺と関わっていてはそれは叶わないんだ。
「......俺」
どうして好きになっちゃったんだろう。
心の奥にしまってあったはずの言葉に出来ない自分の気持ちが溢れてしまう。止めようと思ってもそれは涙に変わって次々とこぼれ落ちてしまう。
くしゃくしゃになった顔を伝ってぽたりぽたりと滴が床を濡らしていた
。
こんなの情けない以外にないじゃないか。
「泣かないで」
腕に触れていた手が俺の手を握って、向かい合うように優しく引かれた。雪男の手が頬を包んで親指が優しく涙を拭う。それでも俺の眼は壊れてしまったかのように涙を溢れさせ雪男の優しい手を汚していった。
涙が止まらない。
しゃくりあげる声が止まらない。
雪男を思う気持ちが止められない。
どうしてこんなにも抱きしめて欲しいとか、触れて欲しいとか思ってしまうのだろう。
おまえがいれば何もいらないと思えてしまうのだろう。
だけど、
俺には何も言えない。
雪男も何も言わない。
それでもわかってしまう。
大好きでごめん。
その言葉を声に出して言える日はきっとこないのだろう。
だが、俺達に言葉などいらない。
願わなくとも触れた所から伝わってしまうから。
某絵描き様がついったに投下された素敵なイラストに感化されて書いてしまった代物です。
いつも素敵な奥村をありがとうございます。
感謝を込めて。
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