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□僕には双子の兄がいる
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※死ネタです。苦手な方はご注意を。






僕には双子の兄がいる。

兄は僕とは正反対で、どんなときも感覚や感情で動く人だ。
僕はそんなやり方が気に入らなくて、幾度となくその行動の先にあるリスクを伝えてきた。
学生の頃も祓魔師になってからも、任務を共にこなすようになっても部下を率いるようになっても。
それでも兄は僕の言うことなど聞きはしない。


「ほら、大丈夫だろ?」


大きな怪我をしても兄はいつも僕にそう言った。おまえは用心深すぎて人を信用していないとも。
事実、僕は誰が相手でも付き合いは一線を引いている。本当に信用出来るのは兄だけだった。
だが、それと感覚のままに動くのは話が別で、そんなやり方ではいつ命を掠められても仕方が無いじゃないかと大人気なく声を荒げたこともあった。

兄の悪魔の力は恐ろしくも強大で、それでいて真っ直ぐな心と芯の強さに誰もが一目置いていた。
人からも悪魔からも異端な存在ではあったが、兄の回りに集まる人は少なくなかった。










「ほら、大丈夫、だろ?」


僕の前に立ちはだかった兄の身体が無惨に引き裂かれた。それなのに口の端から血を流してもなお、僕の腕の中で兄が笑う。


「俺は悪魔だからこんな傷はすぐに塞がる」


大きく息を吸い込んでから緩やかに瞼が閉じていく。
「兄さん!」と呼ぶと大丈夫だから静かにしろと眉を潜められて僕は唇を噛んだ。
胸が何度か上下にゆっくりと動いて、消え入るような声が言葉を紡ぐ。


「大丈夫だから、笑えよ、雪男」


兄の胸の動きが次第に弱くなる。
僕の名を呼んだままの唇が動かなくなる。
血飛沫を浴びて酷い有り様なのに、嘘みたいに穏やかな表情で僕の胸に刷りよる様に顔を寄せた。
血濡れた掌で、幾度も触れた頬に触れる。そして何度も頬を寄せた髪に自らの顔を埋めた。
震える身体を止められない。
掴んでいた手首から伝わっていた小さかった脈はもう触れてはいなかった。

笑えるわけないだろう。
何が大丈夫だ、バカ兄。
だからあれほど言ったのに。










僕には双子の兄がいた。

僕は兄とは違うから、兄のようには振る舞えない。
だけど目標にはしていた。
自慢の兄のように、いつか人を救えるだろうか。
そして、いつか笑える日がくるだろうか。


─笑えよ、雪男。


穏やかな兄の声がどこからか聞こえた。






end

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