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□gloves
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ボタンを押して電話を切った。
深い森を走り抜けながら携帯をポケットに滑り込ませて代わりに腰に装備してある銃をもう一丁右手に握り締める。

ここはギリシャのオリンポス山麓。
神々がいるという誰もが知る聖地だ。太陽の国といわれるこの国には意外にも日本のように四季があり、僕のいるこの山麓付近は二月の今は日本と同じように気温は低く雪も降る。今もまた降りだした雪に足元を汚されながら先を急いでいた。

僕がこの任務に呼ばれたのは山頂付近の調査が目的だった。
最近よく見られるようになった原因不明の光源の正体をつきとめるというもの。それにより支障が出ている事項は無いが付近の住民に調査報告して安心を与えるという目的があった。

それだけの事に上一級祓魔師の称号を持つ僕が呼ばれた。後から聖騎士も合流するという。どう考えてもただの調査じゃない。呼ばれた時から何かあるとは思っていたけど知らされぬままの裏事情を自分から掘り起こすような事はしなかった。ここに来れば少し前から僕に起こっていた少しの変化に対する答えが見つかるような気がしていたから。

こちらに来てから与えられていた任務は麓の調査ばかりで、まるで聖騎士が来るまでの時間稼ぎのように時間は過ぎた。GOサインが出たかと思えば僕一人での登頂。じきに聖騎士が追い付くから先に行けという指示だった。

足元に纏わりつく雪を気にもせずに先を急ぐ。 天候が急激に変化しているため、迅速に任務を行わなければ吹雪に行く手を阻まれそうだった。


「...奥村さん、聞こえますか?...応答願います」


コートのポケットに入れてあった無線機が少しの雑音と共に声をあげた。かじかむ手を突っ込んで取り出し、通話ボタンを押す。


「はい、聞こえます」


一旦足を止めて吹き付ける雪に背を向け無線機から聞こえる音に耳を傾けた。雑音混じりの音は思いの外拾いにくい。


「聖騎士が到着し...そちらに向かいました。待つ必要はありません...一応報告しておきます」

「了解しました。わざわざありがとうございます」

「いえ...あの、奥村さん」


心配そうな声が僕の名前を呼ぶ。無線機の向こうの彼女は塾でも同僚でもう何度も一緒に任務もこなしてきた仲間だ。いつも凛としてしっかりと物事をこなす彼女にしては歯切れの悪い対応にどうしたのかと問えばしばらくの沈黙のあと返答があった。


「こんなのは初めてです」

「わかってますよ」

「ご無事の帰還、待ってます」

「ありがとう...」


そんなに長くない会話だがその中に暖かさを感じながら通話を切った。再びポケットに無線機を滑り込ませて白く変化する息を吐き出した。首に巻いたマフラーを鼻を覆うまで上げてコートの襟を立てる。兄さんに借りた手袋をもう一度しっかりとはめ直して目指す山頂へと体を向け直した。






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