memorial
□聖歌を歌う
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その子が頑張って大きな声で悩みを打ち明けると、子供の頃にあった同じ悩みを抱えていた頃を思い出す。
僕はその子の冷たくなってしまった手を両手で包んだ。
「お歌うたうときに自分でも声小さかったと思う?」
「...うん」
「それって上手に歌える自信がないから小さくなっちゃうんじゃない?」
「...だって、うまくこえがでないところがあるから...」
「だから小さくなっちゃうんだね」
「うん」
「僕も同じだったよ。高い声がうまく出なくて」
「それでっ?うまくなった?」
必死でどうにか上手くなりたいと願う小さな眼差しは僕と同じ碧色だ。握っていたはずの小さな手はいつの間にか僕の手を包んでいてぎゅうぎゅうと力が入る。
「上手くなったよ。木の上のお兄ちゃんのおかげでね」
しっかりと僕に向けられていた視線が兄さんのいる木に向けられる。ちょっと困惑したような表情を浮かべて僕の顔を見ると内緒話をするように小さな顔が耳に近付いた。
「ぼくもうまくうたえるようにしてもらえる?」
「ふふっ、大丈夫。一緒に頼んでみよう」
「う、うん!」
こんなに小さいのに緊張しながらも頑張ろうとする姿が可愛くて親になったような気持ちで頭を撫でてあげた。
「兄さん、聞いてたでしょ?」
「おっ、おう」
飾り付けていた手を休めて木の幹に座るとじっと見下ろされた。
「あの時のどうやって僕が上手く歌えるようになったか覚えてる?」
「んー、まぁな」
「じゃあ上手く歌えるようにしてあげて
」
「おにいちゃん、おねがいします!」
「......」
「燐、成功したらクリスマスは奮発していい肉にしてやるぞ」
端の方で傍観していた神父さんがトドメの一言を言い放つと兄さんの顔は一瞬でパアッと明るくなった。物で釣るのもなんだけど、釣られる方も釣られる方だ。
「仕方ねえなぁ、ほんじゃま教えてやるか」
兄さんはするすると木を降りて男の子の前に立つとストンとしゃがんで両肩に手を乗せた。
「おまえ、高い所好きか?ダメか?」
何だよそれ。
もしかして覚えてないのか?
僕は神父さんと顔を見合わせた。口パクで「大丈夫かアイツ」と言ってるけどそんなこと僕だって不安だ。
「たかいのだいすき!」
「そっか!じゃあ上で練習するぞ」
僕らの不安を他所に兄さんはその子を抱き上げて肩車をした。
「おい、燐っ!危ねーだろっ!仮にもその子は親御さんから預かってる大事なお子さんなんだぞ!」
「わかってるよ、絶対に怪我なんかさせねぇから」
肩に子供を乗せていることなどもろともせずにひょいひょいと登っていく。太い幹まで到達するとそこに座らせて自分も隣に座った。
「おまえらもういいからあっちいけよ」
「は?何で?兄さんに任せてたら危なそうだし」
「ははーん、歌の練習だからなぁ。自分が歌うの聴かれんのが恥ずかしいのか」
「うっせーな、早く向こう行けっ!」
恥ずかしがる兄さんの顔は真っ赤で、そんなリアクションが楽しいらしい神父さんはチャンスがあればこうやっていつも楽しんでいる。
僕は神父さんに手招きで呼ばれてその場を離れることにした。
*