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□一緒に見たい空色
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時折ガタンと大きな音を立てて揺れる電車の中。
俺達は座席の端と一人分程離れた所に座っていた。

雪男の任務にまたも無理矢理くっついていった俺はすることもなくただ車窓の外の流れていく景色を見ていた。
夕方のこの時間、空はピンクと紫に染まっている。


「見てみろよ、空すっげえキレーだぜ」


足を組んで背もたれに体重を預けたまま俯いて本を読む雪男から反応は無い。
その顔を横から覗き込むとうっすら口を開けて眠っていた。


「……」


雪男の顔を見ながら軽い溜息が出た。
そういえば、昨日もその前も遅くまでパソコンとにらめっこしてたっけ。


ガタン。
再び電車が大きく揺れた。
雪男の身体は俺がいるのとは反対の方へと倒れて行く。その腕を咄嗟に掴んだ。
まぁ、乗客のいないこの車両なら完全に横になってもいいのだけれど。


「ん…」

「ワリィ、起こしちまったな」


まだ半分も開かない目蓋を眼鏡を押し上げた手で軽くこするとまた目蓋は閉じられた。

寝呆けてんのかな、コイツ。

そんな様子を見守っていると座っていた位置が少しだけ詰められて雪男の頭がこてんと俺の肩に落ちてきた。


「!?」

「…駅に着くまで」

「え?」

「ちょっとだけ肩貸して…」


そう言うとすぐにすぅすぅと穏やかな寝息が聞こえてきた。


「…寝るの早過ぎだろ」


よっぽど疲れていたのだろう。
雪男の寝息は規則正しく俺の耳の横で繰り返される。
─寝息にまで性格って出んのかな。

そんな事を思っているとぱたりと雪男の膝の上にあった本が床に落ちた。
俺は隣の車両にいる人達の視線を気にしながら尻尾を使って本を取り上げた。
また小難しい内容なんだろうと中を開いてみる。


「人間と悪魔の間に生まれた者達…か」


もっと楽しげな物を読めばいいのに、勉強熱心な奴だと苦笑した。
そんなに厚くないその本をパラパラと捲ると小さな付箋が貼ってあるページで手が止まった。


─人間と悪魔の間に生まれた子が物質界で生きる場合、それを理解し生涯を持って支えてあげられる存在が必要不可欠である。
それが叶わぬ場合、悪魔の性質にのまれることもある。
親が強大な力を持つ悪魔だった時は……。


「…ったく、真面目な奴」


その続きは黒く塗り潰されていた。

もたれかかる身体を少しだけ直してその髪に触れる。さらさらとしたそこに自分の顔を傾けた。


「いくら塗り潰したって事実は変わりゃしねぇんだ。だけど俺はおまえが心配してるような事にはなんねぇから」


小さく小さく呟いて投げ出されていた雪男の手をそっと握った。


「ありがとな」


雪男の温もりを身体の左側に感じてまた窓の外の景色に目をやるとピンクと紫と群青とが交ざり合う空がやけに美しかった。
寮に着く頃には暗くなっちまうなと頭の片隅で思いながら本を雪男のカバンに滑り込ませた。

普段から手厳しい弟だが、こんなふうに思ってくれている事が感じられた時はいつも身体の真ん中が温かくなる。


駅に着いた時にまだ空が綺麗な色だったらいいなと思いながら俺も目を閉じた。




end

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