紫陽花の涙雨
□Find my heart!!
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「わぁ、すご〜い!」
シグに連れられてやって来たのは森の奥の花畑。色鮮やかな花々が咲き乱れている。朝露が太陽の光を反射し、キラキラと輝いている。
「シグありがとう!」
「よかった、アミティが気に入ってくれて。ここ、ムシがいっぱいとれるんだ」
ずるっとずっこける。連れてきたのは花が綺麗だからじゃなくてその花に集まってくるムシの方に用があったからか。
まあでもシグらしいといえばシグらしいけど。彼にロマンチックな何かを求める方が無理な相談だったのか。
「見て、アミティ! 大きな蝶が飛んでる」
「…良かったね」
少し嫌みっぽく言ったつもりなのだがちっとも気付かなかったのか、気にせずシグは一目散に蝶目掛けて走り出した。虫取網をブンブン振り回すが、蝶はそれを嘲笑うかのように網が届くラインのギリギリをふわふわと飛んでいる。
「む…」
シグはぴょんぴょん跳び跳ねながら捕まえようと躍起になっているが、蝶はヒラヒラと余裕で飛んでいる。
立ったままもなんなので近くにあった切り株に座る。シグはこちらに目を向けようともしない。
「……………」
一時間程経ったが一向に捕まえられそうな様子はない。
「私、帰る」
「え」
くるっと振り返り、もと来た道を戻る。
シグはちらっとこちらを振り返ったが、また蝶を追い始めた。
…追いかけてくれると思ったのに。涙が込み上げてくる。シグの目に映るのはいつもムシばかり。ちっとも私のことなんて見てくれない。所詮ただの友達どまりなんだ。
彼はいつだって鈍感で私の気持ちに気付いてくれない……。
気が付くと一心不乱に森の中を走っていた。涙が止めどなく溢れる。私ばかり勝手に突っ走って馬鹿みたい。
「…シグのバカ」
こんなにシグのことが好きで好きで仕方ないのに。シグの一番になりたいのに。シグはいつだって私ではない何かを見てるんだ。
空が紅く染まり始めて、そろそろ帰らなきゃなと思ってふいに我に帰った。
ここ、どこだろう…。森のこんな奥までは来たことがないから帰り道が分からない。それに薄暗くてすごく不気味…。
急に薄気味悪い所に一人で取り残されたと言う恐ろしさが込み上げてきた。怖くて足が震える。立っていられなくてその場でしゃがみこんでしまった。
誰か…誰か来てよ。シグ…。
「良かった。アミティここにいたんだね」
傍で聞き慣れた声がした。ゆっくり顔をあげるとシグがいた。
「…シグ…! うわぁあん!」
あまりの嬉しさにシグに飛び付いた。
「…?? どうしたの、アミティ?」
シグは困惑していたが構わずシグに抱きつく。
「シグのばかぁ! 怖かったんだから!!」
「…ごめん、アミティ」
シグは申し訳なさそうな顔をした。悪いのは何も考えずに飛び出した私のほう。でも、私に振り回されてくれて嬉しい。もっとシグの世界が私でいっぱいになって、私を中心に回ってくれればいいのに。
帰り道、よく見るとシグはかすり傷だらけだった。
「こんなに怪我して…どうしたの?」
「…ちょっと葉っぱで切っちゃって」
そう言ってシグは照れ臭そうに笑った。草を掻き分けてまで私を探してくれたのかな? そう思うと少し嬉しくなった。