静臨

□後悔(連載中)
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「………」

浮上した意識。
ぼんやりと見えたのは、白い世界。
いや…黒だろうか。

此処は…。
自分は…。

臨也は一瞬、これが死後の世界という物か?と疑いを持った。
しかし、死んでも尚、意識がある物なのかとも疑問を持った。
それに、こんな事を考えられるとは、現実味が有り過ぎる。

「………」

次第に視界がクリアになって行き、周りの景色が眼に映る。
やはり、死後の世界ではなさそう。
しかし身動きが取れない事に違和感を覚え、臨也は眉を寄せた。
躯が重く、気分も悪い。
此処が何処なのか確認しようと思ったが、首を動かす事すら儘ならなかった。

眼球のみを動かし、辺りを探る。
自分からは沢山のチューブが伸びており、それを辿ると医療機器が視界に入った。

誰かが見付けて、救急車でも呼んでくれたのだろうか。
感謝しなければならない所だが、少々厄介だな、とも思う。
しかし、今自分の寝ているベッドは、病院の物にしては質が良過ぎる。
内装も、病室と言うよりは…。

「やぁ、気が付いたかい?」

聞き覚えのある声に、臨也は納得した様に片眉を上げた。
視線の先に居たのは、新羅。

「全く、僕も色々と忙しいんだから手間取らせないで欲しいんだけど。君が担ぎ込まれてから、仕事から帰って来てもセルティとゆっくり愛を語る時間も無いし。まぁ君がどうなろうと僕には痛くも痒くも無いんだけど、セルティにしてみれば貴重な収入源な事は確かだ。それに…」
「あー…新羅、ちょっと待ってくれ」

眼を醒ました直後の状態で、新羅の言葉の応酬は流石にキツイ。
恐らく、昏睡状態からの生還と言った所。
そんな人間相手に愚痴るとは…まぁ、そこが新羅らしいと言うか、何と言うか。

「何日か経った?」
「んー、丁度三日かな」

事務的に答えつつ、新羅は臨也の状態のチェックを進める。
その間、臨也は新羅を見上げていたのだが、新羅が臨也に視線を合わせる事は無かった。

質問には答えている為、一見穏やかに見える。
しかし確実に黒いオーラを溢れ出しており、憤奴の状態にある事が解る。
これがセルティならば、本当にボワボワと影を噴出している所だろう。

「貸しを作っちゃったかな」
「ご心配無く、ちゃんと返して貰うつもりだから」
「はは、いくら?」
「そうだな、此処を出て行ける様になったら清算させて貰うよ」

数値を見て、頷く新羅。
どうやら経過は順調の様だ。
と言っても、重傷には変わり無いが。

「相手は?」
「横浜拠点のある組かな。多分、年少組の一人だ」
「また厄介な」
「ちょっとトラブルがあってね。解決したと思ってたんだけど、下の子達は納得してなかったんだな」
「また狙われるんじゃないの?」
「いや、上とは話が付いてるから、勝手に動いたあの子がお咎め喰らうかも」
「でも、どうせ元凶は君なんだろ?」
「はは、どうかな」
「…全く」

チェックが終わり、やっと眼を合わせた新羅。
しかし眼鏡が反射して、表情を窺う事は出来なかった。

「感謝してるよ、新羅」
「僕は別に良いから、その感謝はそこに突っ伏してる静雄にしてやってよ」
「シズちゃん?」

新羅が視線を移し、それに習って臨也も視線を移す。
自分の寝ているベッドの傍らに、何か塊が見えた。

「君も酷い状態だったけど、静雄も手が付けられなくてね。血だらけな服の儘『臨也がっ、臨也がっっ!!頼むから何とかしてくれっ!!』て錯乱状態で、仕方無く鎮静剤を投与したよ」
「シズちゃんが…」

刺された後、路地に逃げ込んだのは覚えている。
自販機に寄り掛かって、今自販機を投げ付けられたら確実に死ぬな、と呑気に考え…そこから臨也の記憶は途切れている。
新羅の話からすると、自分を発見して連れて来てくれたのは、静雄という事になる。
静雄にも貸しを作ってしまったのかと、臨也は盛大な溜息を吐いた。

「傷は深いけど、幸い臓器の損傷は無いし大丈夫だよ。まぁ出欠が酷かったから大量輸血をしたけど…ホント、静雄に感謝しなよ。後少し遅かったら、君は唯の肉塊になってた所だ」
「はは、ハッキリ言うな」
「当たり前だろう。流石にあれだけの血液を用意するのは大変だったんだから。最初病院に移した方が良いかと思ったんだけど、事情聴取されたら色々と困るだろ?まぁ、手入れの行き届いた刃物を使って貰った事にも感謝するんだね。綺麗な傷口だから、くっ付くのも早いんじゃないかな」
「はは、まぁ。いや、ホント、助かった」

病院に担ぎ込まれていたら、確かに色々と面倒だった。
それにその辺の医師では、もしかしたらダメだったかもしれない。
それだけ、新羅のツテと腕は信頼している。

「臨也、これだけは言っておくよ。人間、誰しもいつかは死ぬモンだ。でも、こういう死に方をするのならば俺の眼の届かない所でやってくれ」
「…はは、何か今日は厳しいな」
「当たり前だ、俺は怒ってるんだよ」

そう言うと新羅は白衣の裾を翻し、静雄の肩を数回揺すり起こした後、静かに部屋を出て行った。
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