四木臨

□CHU-RU-RU
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倦怠感の残る躯。
しかし、全く動けない程では無い。
それは自分のペースで動いていたから、無理をしていない為。
勿論、絶頂を迎えて精を吐き出したのだから、目的は達成している。
これ以上、望む物は無い。

ゴミ箱に白濁塗れのゴムとティッシュを投げ入れた四木も、もう終わりだとばかりにベッドから抜け出て腰掛け、背を向けて煙草に火を点け始めている。
吐き出す息が聞こえ、背中越しに燻る白煙が見える。
それを臨也はボーッと眺めていた。



四木との出会いは、高校の卒業式だった。
臨也を追い掛け回す事が日課となっていた静雄は、卒業式の日も例に漏れず、登校すると直ぐに追い駆けて来た。
一応、節目の今日位、と思うが、それを我慢出来る静雄では無い。
それは、臨也も解っている。
教師達に挨拶をと思っていたがそれも叶わず、式に出る事も無くその日はずっと追い駆けっこをする破目となった。
教師達にしてみれば、二人が居ない事で恙無く式を執り行う事が出来、安堵していたかもしれないが。

既に池袋では有名になっていた二人。
静雄の手には引っこ抜かれた標識が握られていたが、殆どの者がとばっちりを受けない様にと遠巻きに見守るばかり。

しかし、その日は珍しく止めに入って来た男が一人。
実はこの男、黄根という粟楠会の者だった。
粟楠会と言えば、池袋では名の知れた暴力団。
これを逃す手は無いと思った臨也は、先ずその男に取り入りコネを掴んだのだが、正直こんなに上手く行くとは思わなかった。
勿論、粟楠会との関係を深められた一番の鍵は、延長上にいた四木の存在があったからなのだが。


「どうしました?」
「えっ?」

つい、物思いに耽ってしまっていた臨也。
四木に声を掛けられ、驚いた様な声を上げた。

「そんなに見詰められては、土手っ腹ではなく背中に風穴が開いてしまいそうです」
「っ…別にそんなに見ては…」
「一応その筋の者ですので、視線には敏感なんですよ」

後ろ向きの儘そう言いつつ、白い煙を吐き出す四木。
今、どんな顔をしているのだろう。そう思いながら、臨也は尚もその背中を見詰めていた。

「…少し、昔を思い出してたんですよ」
「ほう、折原さんも年を取りましたね」

喉奥で笑う四木の声が響き、臨也は面白く無さそうに眉を寄せる。
それが見破られた様で、四木はまたクスクスと笑みを零した。

出会った頃から、四木は冷静で、常に余裕を見せていた。
幹部なのだからその位の度量が無くてはとも思うが、いつになっても手が届かない様で、臨也の表情は益々曇る。
どれだけ年を重ねても、四木には追い付けない。
勿論、年齢の差の話では無い。
手を伸ばしても、本気で取り合ってくれない様な、そんな気がした。

「どうしました?」
「いえ、何でも」

十代の頃なら無邪気に振舞えたが、この年になると無理になって来る。
同級生や、寧ろ年下の者達の前での方が、まだ馬鹿な事も出来る。
しかし年上の、と言うか、四木の前では我儘も言えなくなってしまう。

「言いたい事があるのなら、言ってしまった方が良いですよ?貴方はまだ若いんだから、我慢する事はないと思いますけど」
「っ……」

心を読んだかの様な四木の言葉に、臨也は息を飲む。
昔からそうだ。
この人は、無関心の様で、放任の様で、だが実はちゃんと見ている。

「あの…じゃあ、聞いてくれますか?」
「何です?」

言いたい事は、山程ある。
でも、口で言っても解決出来る事では無い。
出来る事だったら、とっくにしている。
これは、もっと自分が成長しないといけない事柄。頭の良い臨也だ。
そんな事、解っている。
だから今、足掻ける事と言えば。

「あの、良かったら、もう一度…」
「…あぁ……良いですよ」

少し考えた後、煙草を灰皿に押し付け、再びベッドの上へと戻って来た四木。
それを見て、断わられなくて良かったとホッと胸を撫で下ろしつつ、躯を起した臨也。
しかしその儘肩を押さられてベッドに沈み込まされ、臨也は目を見開いて息を飲んだ。

「っ…あの、俺がまた上に乗りますよ」
「いや、あんな風に可愛い所を見せられては…ねぇ」
「何がですか?」
「無意識ですか?またそれはそれで、性質が悪い」

そう言うと、四木は布団を剥いで臨也の裸体を露にし、足を開かせてその間に自分の躯を前進させた。
達してからそう時間は経っていない筈なのに、もう硬さを取り戻している。
そんな自身に苦笑しつつ、四木はソレを手で支え、目の前でヒクつく臨也の後孔に宛がう。

「さっきしたばかりですから、この儘やっても大丈夫ですよね?」
「え、そりゃ、あの、でも…っ、あのっ、ッ、ァッ…アッ」

溶けきっている臨也の秘部に、四木の肉棒が突き刺さる。
ズブズブと無遠慮に内部に侵入して来るが、先程まで飲み込んでいた為、内壁はその侵入を難無く受け入れる。
しかし、臨也は酷く戸惑っていた。

「あのっ、待っ…」
「どうしたんですか?誘ったのは其方でしょう?」
「そうじゃなくてっ…ゴムッ…」
「あぁ…すいませんね、ちょっと余裕のある大人でいられなくなってしまいまして」

四木との行為では、ゴムを欠かす事は無かった。
しかし今、挿入されている肉棒には装着されていない。

「嫌でしたか?」
「いえ、ちょっとビックリして…良いですから、その儘続けて下さい」

生で感じる四木はいつもの数倍も熱く、臨也は瞳を蕩けさせる。
そしてソレで内部を掻き回され、臨也は声を上げて身を捩った。

「四木さんっ…凄い…イイ…もっと…」
「っ…」

艶のある声で強請られ、四木は息を詰める。
そして顔を歪ませると、臨也の足を肩に担ぐ様に抱え込んで膝立ちになった。
当然、臨也の躯は肩を残して宙に浮き、半ば逆さの状態になる。

「えっ、あの、四木さ…アッ、ンッ…ッ、ふ、ぁ…アァッ」

こんなに積極的になる四木は珍しく、臨也は驚いて目を見開く。
しかし四木は返事する事も無く、ほぼ浮いた状態の臨也を躯ごと揺さ振る様に、律動を開始した。

ギシギシとベッドが軋み、結合部からはグチュグチュと水音が漏れる。
そこに臨也の喘ぎが重なり、いつもはしない四木の荒い息遣いもプラスされていた。

「四木…さんっ、なっ、どうし…アァッ」

グリグリと前立腺を押し上げられ、臨也は堪らずに嬌声を上げる。
その後も四木に攻められ続け、敏感になっていた臨也の躯は、その度にビクビクと震えて先走りを垂らした。

「実は私、いつも抑えているんですよ。なのに貴方と来たらあんな煽る様な視線…堪りませんよ」
「四木、さん…四木さんっ…」

別に、煽っているつもりは無かった。
ただ、自分だけが抱いている慕情に、少し切なくなっていただけだった。
しかし、四木の言葉を聞き、臨也は目を見開く。

「あの、四木さんっ…抑えてるって…?」
「良いから、黙ってただ喘いでろ、臨也」
「っ…ンッ、ッ…ふ、ぁ…アッ…アァッ」

四木の口調が変わり、臨也はヒクリと身を震わせる。
そして、下の名を呼び捨てにされ、臨也は咥えているモノをキュッと強く締めた。

急に臨也の内部が狭くなり、締められた四木は顔を歪ませる。
そして、もうそんなに持たないと感じた四木は、臨也の躯を抱え直すと、奥の肉壁まで届く様な勢いで、何度も腰を打ち付けた。

「出すぞ?」
「いいよ、ちょうだい…ナカに…いっぱい」

快楽に包まれた四木の顔を見上げながら、臨也はコクコクと首を縦に振る。
面倒な後処理をしなくてはいけないのは解っている。
しかし、全身で四木を感じたい。
そう思った臨也は、中出しを拒まなかった。

前立腺を刺激されながら、穿たれる度に先走りを撒き散らしている自身も扱かれ、臨也は喘ぎながら白い喉を晒す。
そして射精感が込み上げ、太腿の痙攣と共に躯をビクンと震わせた。

「アァッ、四木さんっ…アッ…アァッ」
「ッ…臨也…」

背を撓らせ、シーツをきつく握って臨也は精を吐き出した。
扱いていた四木の手が、白く汚れて行くのが見える。
それもまた、何とも言えない快感。
そう思っていると内部で四木が弾け、熱いモノが注がれた臨也はうっとりと目を潤ませた。



「さっき、あの日…黄根さんでしたっけ?あの方に会わなかったら、今の俺はいないかもしれないんだなーと思ってたんですよ」

再び紫煙を燻らせる四木をぼんやりと見上げながら、臨也はベッドに身を沈ませた儘ポツリと話始めた。
あの日、黄根が喧嘩の仲裁に入って来なかったら、情報を売りにはしていたかもしれないが、仕事として確立出来ていたかと言えば首を捻る所。
勿論色々な方面に顔を売り込んではいたと思うが、最初に粟楠会とコネを作れたのは幸運だった。

勿論、それだけでは無いが。

「四木さんとの親睦も深められましたし」

もっと深めたいと思っていた臨也だったが、此処まで来れただけでも感謝しておこう。
この先この関係が、進展するか足踏みか後退か、それは自分次第だ。
そう思っていた臨也だったが、続く四木の言葉に目を見開いた。

「あの日…若頭の黄根に行く様に言ったのは、実は私なんですよ」
「えっ?」
「折原臨也という情報に秀でた高校生がいると聞いてね」
「…四木さんが?え、じゃあ、あれって…はは、そう、ですか」

初めて聞く新事実に、臨也は混乱しつつも事態を把握しようと、懸命に思考を巡らせた。
あれは仕組まれた事で、偶然通り掛かったからではなかった。
それは、自分の評価を買ってくれていたという事か?

「すいません、早々に懐に入れておきたかったんです」
「そうだったんですか…あ、俺、大学受かってたんですよ」
「えぇ、知ってます。だから」
「あぁ…はは、酷いですね」

大学生活を送らせない為に、四木は強行手段に出た。
しかも、自分から出向いて来る様、策略して。

「四木さんて、意外と手段を選ばないんですね」
「そんな事ないですよ。まぁ…欲しいと思った事に関してだけ、ですよ」

そう言いながら白い煙を吐き出す四木は、一見落ち着いている様に見えて、実はかなり動揺していた。
何故バラしてしまったんだろう、と後悔しながら。

一方の臨也は、四木の告白に驚き、何度も瞬きを繰り返していた。
四木の策略に、まんまと嵌められていたとは。
しかし、それを聞いても臨也が怒りを露にする事は無かった。
寧ろ、喜びの方が大きい。
ここまで誰かに求められた事が、あっただろうか。

「あの、四木さん…」
「もう今日は無理ですよ?」
「俺だってもう無理です。そうじゃなくて、腕枕、して貰えませんか?」
「………」

臨也の申し出に、四木は一度眉を寄せた。
しかし、仕方ないと言う様に煙草を灰皿に押し付け、溜息を吐きつつベッドに横になった。






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