海老(黒虎)

□願わくば
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俺の名は、H-01。
名前と呼ぶには語弊があるかもしれない。
所詮、ただの番号だ。
俺が壊れれば修復され、修復不可能となれば解体され、また新たなアンドロイドが作られるだけ。
その場合、H-02とでもなるのだろう。

俺には、感情という物がない。
指示に従い、遂行するのみ。

奴を捕らえろ
奴等を捕らえろ
あの二人を倒せ

圧倒的な力の前に、ヒーローと呼ばれている者達は為す術もなく捕らわれた。
そして今、目の前の二人も傷付き、絶望を見ている。
人間崩れ、いや人間のなりそこないのNEXTが、アンドロイドに勝てる訳ない。
それが俺を作った者の口癖。
俺もその考えに賛同していた。
勿論、賛同以外の選択はないのだけれど。

しかし、傷付いても倒れても、何度も起き上がって来る二人に、狼狽していた。
このしつこさは何だ。
だが、能力を発動した所で、アンドロイドである俺に勝つ事は不可能。

だが。

不覚にも緑の奴に背後を取られ、窮地に追い込まれる。
勿論、こんな奴を投げ飛ばす事はたやすい。
しかし、そこで俺に迷いが生じた。

「俺に構わず、打て」

そう言う奴の言葉に、理解不能になる。
構わず打たれれば、自分も被害を受ける。
当たる前に避けると言うが、あの銃の威力の前では、避けた所で無事では済まない。

と、此処でこの男の情報が検索される。
この男、鏑木・T・虎徹。
正義の壊し屋として、ヒーロー界に長く君臨。
崖っぷちと言われていたが、相棒のバーナビーブルックスJr.と共に数々の事件を解決し、今や二人、最高のバディ。

バディとは…何だ?

そう頭を悩ます俺に、この虎徹という男の思念が流れ込んで来る。

信頼


判らない事ばかり。
そんな物、プログラムされていない。

自分を犠牲に他者を救う

何故、自分を犠牲にする?
何故、自分の悩みをひた隠して他者の心配をする?
何故?

そこで、こんな事を思う自分に、俺も驚く。
いつの間に、こんな事を考えられる様になった?
指示に従うだけのアンドロイドの筈なのに。

そうこうしている間に、相手の男、バーナビーブルックスJr.が銃を放つ。
避けなければ。
そう思うのに、動けなかった。

やっぱ能力切れてちゃ無理か

その声が聞こえた。
能力発動していても、あの銃の威力には敵わないだろう。
なのに、能力が切れていたのに、打てと言ったのか。

何故?

何故?

口のない俺には、質問する事が出来ない。
質問する必要等、アンドロイドにはないからだ。
だが、俺は聞きたかった。
何故だ。
何故、何故、何故。

『何故』

恐らく、この男には伝わらないだろう。
だが聞きたい。
そして、この男を此処で終わらせたくない。
指示に背く事になってしまうが、それでも俺は、そうしたかった。



そして俺は、迫り来るビームを全身で受け止めた。



俺の体は上半身が吹き飛び、残ったのは下半身のみ。
後ろにいた男も無傷ではないかもしれないが、生命は残るだろう。

あぁ。
何となく判った。
自分を犠牲にする心が。
人間とは、こういう物なのか。

そして俺は虎徹から離れ、前方へと歩みを進める。

バーナビー。
今度はお前が教えてくれ。
信頼という物を。

もっと俺に、お前達の事を。
人間という物を。

何故…

そこで俺の動きは止まり、気付けばガクリと膝を付いていた。



敗北なのだが、清々しい。
最後に、良い物を見れた。
今度この世に作り出される事があれば、願わくば、人間の役に立てる立場でありたい。




end.

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