村虎

□深夜、酒屋の片隅で
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明日、一度シュテルンビルトに戻ると言った虎徹は、前日同様、兄が営む酒屋の隅にある簡易バーでグラスを傾けていた。
営業時間外ではあるが、兄弟の誼みで特別に開けてくれている。

何も言わずとも何かあったのだろうと気付かれ、敵わないなと能力減退の事を話した虎徹。
何故もっと早くに言わなかったんだと言われても、誰に何と言えば良いんだ。
誰にも言える筈がない。

「ったく、一人で抱え込む癖、相変わらずだな」
「るっせぇ」

普段は何でも直ぐ口にするのに、肝心な事は何も言わない。
だから、村正も危なっかしくて見ていられない。

「他人を頼れないんなら、俺を頼れば良いだろう」
「んな事言ったってよ…」
「良いから、今度何かあったら電話でも良いから直ぐ言えよな」
「…判ったよ」

叱られ気味にそう言われシュンとなりつつも、虎徹は兄に感謝していた。

いつも、兄には迷惑ばかりかけていた。

能力が発動した時もそう。
一人で悩みに悩み抜いて落ち込んでいた時、無理矢理本音を引き出された。
少々荒い療法だったが、今でも相談に乗ってくれた事に感謝している。

友恵を亡くした時もそう。
楓の手前、気丈に振る舞っていたが、あの時は心身共にボロボロだった。
それを気遣い、支えてくれたのも、兄。

要所要所で手を差し延べられ、虎徹はその度に助けられて来た。
感謝してもしきれなく、本当に頭が上がらない。

「ありがとな、兄貴」
「何だよ急に、気持ち悪いな」
「なっ、ひっでーな、人が素直に礼言ってんのに」
「素直にねぇ…そういやお前、普段は素直に言えなかったのにな。成長したって事か?」
「っ…るっせぇって」

口を尖らせ、フイと顔を背ける虎徹。
反発の態度を見せる虎徹に、村正はクツクツと喉奥で笑みを零した。

「ったく、お前はいつまで経ってもガキだなぁ」
「なっ、ガキじゃねーよっ」

頭にポンと手を置かれ、虎徹は不機嫌そうに顔を歪ませる。
そのうちグリグリと撫で回され、本格的に眉間に皺を刻み始めた。

「ガキじゃねーって」

パシンと兄の手を払う虎徹。
しかしその手を捕まれ、虎徹は少々瞳を大きくした。

「そうだったな、あんな事した仲だもんなぁ」
「っ…あれは…」

村正が指す事が直ぐに判り、虎徹は一気に身を固くする。
実は一度、二人肌を重ねた事があった。
若かりし頃。
ちょっとした弾み。
興味本位、だった。

「はは、冗談だ、ガキ相手にもうそんな気になれねぇよ」
「だからっ、ガキじゃねーって」

どこまでも子供扱いされ、カチンと来た虎徹。
そして虎徹は、逆に兄の手を掴み返した。

「ガキじゃねーって所、見せてやるよ」

そう言って、虎徹は静かに立ち上がる。
そしてカウンターの中に入ると、ニイッと笑みを浮かべつつ村正に覆い被さった。




暗がりに、水音が響く。
ジュル、と吸い上げる様な音の間に、吐息も漏れている。
何をしているのか等、聞かなくても想像はつく。

「おいおい、お前どこでそんなの覚えた?」
「へへ」

見上げると、そこには余裕を無くした兄の顔がある。
それを見た虎徹は、ニヤリと口端を上げつつ、目の前にそそり立っている肉棒をしゃぶり続けた。

虎徹の舌遣いに持って行かれそうになり、焦り始めた村正。
鼻で笑うかの様な虎徹の表情に、カチンと来る。
弟に主導権を握られて堪るかと、村正は虎徹の頭を掴んでグイと引き剥がした。

虎徹の服を脱がせてカウンターに手を付かせ、腰を取る村正。
相変わらず細い、そう思いつつ、双丘の割れ目に指を挿し込む。

「ッ…んっ…ふ、ぁ…」

ズブリと指を捩込まれ、虎徹は控え目に吐息を漏らす。
細く長い指とは違う、太くゴツゴツとした村正の指。
グチュグチュと音を立てて解され、虎徹はゾクリと身を震わせる。
カウンターに突っ伏しながら、増やされた指に眉を寄せる虎徹だったが、それ以上に村正の方が眉を寄せていた。

「おい虎徹、お前…」

捩込んだ指を後孔は難無く飲み込み、村正は驚いて息を飲む。
少し指を動かしただけで、内部は直ぐに解れる。
こんなに抵抗無く数本の指が入るという事は、定期的に受け入れているという事。

「お前、向こうに相手、いるんじゃないのか?」
「………」

虎徹の沈黙を肯定と受け取った村正は、眉を寄せつつ、ハァァと深い溜息を吐いた。

「お前なぁ、何考えてんだ。お前はそんな軽い奴じゃないだろう?」
「…良いんだ」
「何が良いんだよ。相手に失礼だろう」
「良いんだって。何つーか…色々、卒業だ」
「………」

何を言っているんだと、追及したい気分の村正。
だが、何も知らない立場の為、何も言えない。

恐らく、シュテルンビルトに相手がいるのは当たりだろう。
好きな相手が出来たのならば、喜ばしい。
友恵の死後、ずっと独り身だったのだ。
そろそろ良い頃なのではと、村正は思っていた。

しかし、どうやら相手は男の様子。
弟がそっちの道に行ってしまったのかと驚くが、切欠を作ったのは自分かもしれないと思うと、強くは言えない。

だが、寂しさを紛らわせる為だけに男に抱かれているのかもしれないと思うと、一言忠告をせねばとも思う。
しかし、虎徹の表情を見る限り、そうでは無さそうに思える。

相手の事も思っての事、なのか。

辞表を出し、田舎に帰ると言った虎徹。
楓との時間を大切にしたいからと言う虎徹に、村正も賛成した。
しかし、その相手とは、どうするつもりなのだろう。
卒業という事は、つまり…。

「何でも良いけど、俺を面倒事に巻き込むなよ?」
「んな事にゃなんねーよ」
「お前なぁ……あー、まぁ、俺が口出しする事ねーのかもしんねーけど」

眉を下げて笑う弟を見て、再び溜息を吐き出す村正。
虎徹が何を考えている何て、手に取る様に判る。

「何だよ兄貴、止めんのか?ちっせー男だな」
「チッ…ったく、この野郎」

普通なら、ここで止めている。
しかし、弟にあぁまで言われては、引く訳にはいかない。

今後、面倒な事になるかもしれない。
そう思いつつ、村正は埋め込んでいた指を引き抜き、代わりに自分のモノを出して弟にぶち込んだ。

「いっ…何がっついてんだよ、下手くそ」
「お前に手加減する必要何かないだろーが」

誰と比べてんだか、と心の中で悪態を吐きつつ、村正は早急に律動を開始した。
虎徹はそれを咎めず、大人しく受け入れている。
村正は自分の下で乱れる髪を眺めつつ、細い腰を掴んで荒く腰を打ち付け続けた。

「アッ…ッ、クッ…ンッ、ァ…ッ、ヒッ、は、ぁ…アァッ」

肌が当たる音と、グチュグチュという粘着質な音、それに虎徹の喘ぎが混ざる。
そこには、酒屋の片隅にあるバーとは思えない様な、淫猥な光景が広がっていた。

「うっ…ヒッ、ァッ…クッ…ッ…」

虎徹の喘ぎに嗚咽が混ざり始め、セックスの所為だけではないであろう涙も溢れている。
快感に酔って泣いているのだけではない。
明らかに感情が含まれている。

「ったく、面倒だな」
「ヒッ、アッ…アアッ、や、待っ…激し…や、ぁ…アァッ!!」

辞表を出すとは言った物の、能力減退やヒーローを辞める事は、やはり辛いのだろう。
それに、こちらに帰って来ると決めたらしいが、色々と別れもあるだろう。
恐らく、大切だと感じる者がいる筈。

「しょーがねーな、泣かしてやっから」
「何言ってんだよ、意味判ん…ッ、ヤッ、待てって、アッ…ヒッ…クッ、ッ…ふ、ぁ…ヒァッ…アァッ…」

わざと荒く腰を打ち付け、内部をグチャグチャに掻き回す村正。
髪を乱す程激しく突かれた虎徹は、声を上げて涙を流した。

「ッ、クッ…は、ぁ…ンッ、っ…ぅっ…ヒァッ、アァッ…」

後ろから伸びて来た手に性器を掴まれ、背をしならせて身を震わせる虎徹。
カウンターにしがみ付く様に掴まるが、足がガクガクと震えてしまい、崩れそうになる。

「兄貴、もっとゆっくり…立ってらんね…ッ…ヒッ…ゃ、アァッ…」

虎徹の言う事に等耳を貸さず、村正は尚も激しく攻め立てる。
虎徹の内部はもうグチャグチャに蕩けており、扱かれている性器も、先走りでドロドロになっている。

「も…ダメ、だ…イキそ…」

朦朧とする意識の中、ブルリと身を震わせる虎徹。
前も後ろも荒く攻められ、限界が目前に迫っていた。

「ヒッ…っ、ぁ…ンッ…ァッ…も…アッ…アァッ…」

先端に指が捩込まれ、虎徹は我慢の限界を越え、声を上げて精を吐き出した。
キュゥと締め付けられた事もあり、次いで村正も弟の体内に射精をする。

村正の手中に放出された、ドロリとした精液。
それを性器に塗りたくられ、虎徹は再び身を震わせる。
そして達したばかりの所で先端を弄られ、白濁とは違いサラサラとした透明に近い液体をピュルッと放った。




「ッ…は、ぁ…おい兄貴…いくら何でもヤリ過ぎだろ…」
「何言ってんだ、お前から誘って来たんだろーが」

文字通り腰砕けになってしまい、カウンターに突っ伏した儘、文句を言う虎徹。
ちょっとからかってやろうと思っただけなのに、潮まで吹かされてしまった。

だがその前に、本意を見透かされていた様だ。
お蔭様で、思い切り泣く事が出来た。
しかし、やはりヤリ過ぎだ。

「明日帰んのに、こんなんじゃ駅まで歩けねーよ」
「心配すんな、母さんや楓ちゃんと一緒に送ってやる」
「あのボロ車でか?」
「ボロじゃねーよ、ビンテージだ」

そして虎徹はカウンターに額を付け、「ビンテージねぇ…」と呟いてクスリと笑みを零した。




end.

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