言切

□包囲
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不覚だった。
気が緩んでいたとは思えないが、この状況がそうだと告げている。
もっと気を張っていなければならなかったのに、失態だ。
そう自分を叱咤し、切嗣は奥歯を軋ませた。

切嗣の周りにはいつの間にか結界が張られており、それが徐々に範囲を狭めて来ている。
その事に気付いたのは、一時間前。
結界は、城の周り、森の外周をも囲む大きな物。
それ程強い物ではないが、狭まる度に強くなって来ているのを感じる。
恐らく、張った時はもっと微弱な物だったのだろう。
だとしても、気付かなかったのは失態だ。

悪い事は続く物で、舞弥には別件を頼んでおり、この地にはいない。
連絡を取ろうと思ったが通じず、通信機器はどれも不通となっている。
定期連絡を義務付けている為、連絡が付かないこの状況に不審を抱き、彼女なら行動に起こしてくれるかもしれない。
だが舞弥の到着前に、事を起こされるかもしれない。

「クソッ……」

切嗣には解っていた。
この結界を張った主が、誰なのか。

一番、気を付けていなければならなかった相手。
一番、厄介な相手。
そして、一番会いたくなかった相手。

「言峰……綺礼……」

忌々し気にその名を吐き出し、窓の外に目を向ける。
姿は見えないが、綺礼の気配が切嗣に突き刺さって来る。
気配を消せていないのか。
或いは、悟らせる為にわざと消していないのか。
綺礼なら、恐らく後者。
徐々に追い詰めて行く感覚を、愉しんでいるのだろう。

嫌な奴。

だが、切嗣もただ手を拱いているだけではない。
愛用の銃達の手入れをし、城の至る所に罠を仕掛ける。
此処は妻子との思い出も多く詰まった場所でもある為、出来れば壊したくはない。
だから、極力自分の放つ弾丸のみで仕留めたい。

しかし、切嗣のそんな思惑を見透かした様に、相手の
侵略が始まる。
森の奥で、地雷が鳴った音が城に届く。
それも一つではない。

「っ……来たか……」

その地雷の音の数に、切嗣は眉を寄せる。
かわせるトラップを、わざと発動させているのではと思う程。
この分では、城に施したトラップも、全てわざと掛かるつもりなのでは。

そして、綺礼の思惑に気付く。
恐らく彼は、全てを壊すつもりだ。
以前、アイリと舞弥を眉一つ動かさずに攻撃した綺礼。
神父のくせに、感情を持ち合わせていないのかと疑いたくなる。
だがそれは自分にも言える事で、他人を責められる立場ではない。

「仕方ない、迎えに出てやるか」

フゥと一つ、深い溜息を吐く切嗣。
そして装備を固め終えると、侵入者を迎え撃つ為、部屋を出た。




   end.

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