『惚れ直し』


筆を手に、真白な紙を前に、私はそこで動きが止まってしまった。
「どうしよう……。」
楓ばあちゃんに頼まれて、西国に手紙を書かなければいけないのだ。手紙位、自分一人でも出来ると思っていたのに。甘かった、と、数時間前の己の愚かさを悔やむ。
「あー。」
声ともつかない声で唸りながら、筆をくるくると回していたら、背後に犬夜叉が寄って来た気配を感じた。
「……犬夜叉?」
私は顔だけ後ろに振り向いた。
「何か困ってんのか?」
いつも逸早く私の苦悩に気付いてくれる、優しい人。
「うん。手紙をね、書かなきゃならないんだけど。字が分かんない、っていうか……。」
まさか、無事高校を卒業したにも関わらず、字が分からない等と言う日が来るとは思わなかった。心の中で苦笑する。
この時代は現代とは違い、変体仮名を使っているから。極稀に、私でも読める字もある。しかし、やはり大概は分からない。こんな事なら、薬草の事や御祓いの事だけではなくて、変体仮名の勉強もしておくべきだった。
「おまえの國にも字はあっただろ。いっつも書物読んでたじゃねぇか。」
「この時代のとは少しだけ違うのよ。」
自然に溜息が出てしまう。もう、無駄な足掻きは止めにしよう。
「やっぱり、楓ばあちゃんに書いて貰おう。」
私は立ち上がった。しかし、袖が引かれて、半分強引的に再び座らされる。犯人は勿論、犬夜叉だ。
「俺が書いてやるよ。」
「嘘。犬夜叉、手紙の書き方分かるの?」
「馬鹿にすんなよ。」
そう言えば、犬夜叉は字が書けるんだった。この時代で字が書ける人は中々いないから、それは雅な事なのだ、と思う。
書きたい内容を伝えれば、犬夜叉は少しも躊躇わずに筆を動かし始めた。
私は書道の事は良くは分からないけれど、なんとなく、その字は繊細且つ達筆。改めて、格好いいなあ、好きだなあと思ってしまった。戦い以外の場面で、しかも文化的な面で、犬夜叉の事をその様に思うなんて。なんだかくらくらしてしまう。
「犬夜叉。今度、ちゃんと仮名の書き方教えて。」
「おー。」
素気ない返事が返って来る。しかし、何だかんだで面倒見の良い彼の事だから、恐らく丁寧に教えてくれるのだろう。
正に「支え合っている」という感じ。これこそが夫婦なんだと思うと、頬が熱い。
「楓ばあちゃんの所に行って来るね!」
赤く染まっているであろう顔を見られたくなくて、私は逃げる様に小屋を飛び出した。








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結帆さま、こんな素敵なお話をどうも有難うございました。
犬夜叉って知れば知るほど意外な一面がありそうなので、そのギャップを目の当たりにするたび、かごめちゃんは何度も犬夜叉のことを惚れ直すんでしょうね。同じ相手に何度も恋に落ちる、って素敵ですwww

こんな私ですが、宜しくお願いいたします♪

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