小説U
□永遠の蒼。
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あたしはずっと自由になりたかった。
そう、風のように自由に。
風を操っていながら、その自由な風とは最もかけ離れた存在、それがあたしだ。
あたしが自由になるためには、あたしの心臓を握っている奈落を倒して、心臓を取り返すしかなかった。
取り返す、と言ったってそれは元もとあたしにあったものじゃなく、最初から奈落が持っていたものだから、奪い取るという言い方のほうが正しいのかもしれねぇな。
だからあたしはあいつに、殺生丸に近づいた。
あたし一人の力では到底倒すことなど出来ない、奈落をこの世から葬り去ってもらうために。
そう、ただそれだけのために。
それがいつからか、あいつがあたしの中で犬夜叉の兄貴ではなく、殺生丸になった。
理由なんて分からねぇ。
もしかしたら、あたしが持っていない自由を生きている殺生丸が羨ましかっただけかもしれない。
それにしても心臓はなくても心はある、なんて厄介なだけだな。
あたしもいっそのこと神無みたいに心がなければ楽だったのだろうか。
それなら奈落を裏切って自由を手に入れようと考えることも、殺生丸に説明のつかない感情を抱くこともなかったはずだ。
奈落、間違いなくあたしはあんたの一番の失敗作だよ。
だけどその失敗作ももうすぐ消える。
いや、奈落あんたによって消されるんだ。
確かにずっと望んでいた心臓はあたしの中に戻ってきた。たっぷりの瘴気と一緒に。
奈落、あんたはあたしが自由と引き換えに、絶望と苦痛と中で死んでいくと思ったんだろ?
残念ながら、あんたのその予想は大はずれさ。
あいつは、殺生丸はあたしだと分かっていながら瘴気のにおいを追って来てくれたんだ。
それだけで、最後に会えただけであたしには十分さ。
奈落、あんたの瘴気もたまには役に立つもんだね。
それにこれで本当に自由になれる。
もう自由に憧れるのは終わりだ。
さぁ、これからどこへ行く?
どこにでも行ける。
だってあたしは風だから。
そう、あたしは空を舞う自由な風だ−。
→あとがき。