雪7題

□雪化粧
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「お兄ちゃん!」
「あ、危ないよ!」
いつもの公園で待っていた律は、少女がこちらに走ってくるのを見て、慌てて声を上げる。
ここ何日か雪の日が多く、公園内にも雪が積もっていて足場が悪いからだ。
だが律の制止も虚しく少女は「きゃ!」と声を上げて、思い切り転倒してしまった。

「大丈夫?」
「平気、平気。」
少女はニコニコと笑いながら、立ち上がる。
どうやらやわらかい雪の上だったので、ダメージを負わずにすんだようだ。
だがその代わり、少女は雪まみれになってしまった。

「とんだ雪化粧だね。」
律はそう言いながら、少女の髪やコートについた細かい雪を優しい手つきで払ってやる。
すると少女は「ありがとう」と礼を言って、軽く頭を下げた。
母親はおらず父親と2人暮らしと聞いたが、きちんとした躾を受けている子だと思う。

律はこの少女の名前を知らないし、少女も律の名を知らない。
ちなみにこの場所は少し前にこの世を去った友人の実家の近所だった。
その葬儀の日にたまたま通りかかったこの公園で、泣いている少女を見た。
声を殺して泣いている少女があまりにもかわいそうで、声をかけた。
悩みを打ち明けられた律は、少女を励ました。

その後も気になって、律は時間があればここへ来るようになった。
特に約束をしていないから、会えるときもあるが、会えないときもある。
それでも会えれば、少女の話を聞いた。

律は知らなかった。
少女の父親やその恋人が自分と同じ会社の人間であることを。
その2人が少女が何かに悩んでいることを感じて、ヤキモキしていることも。
こうして律と少女が会っていることを不審に思っていることも。
ただ単純に通りすがりの少女の力になれればいいと思っていた。
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