夜5題

□濃紺を彩る流星
1ページ/3ページ

「まったく、どうしてこうなのかな。」
木佐は相変わらずモテまくっている恋人を見ながら、苦笑した。

木佐の恋人、雪名は大学を卒業した後もブックスまりもで働いている。
画家としてはまだまだ駆け出し、絵を置いてくれる画廊もまだわずか。
例えるなら、まだ殻を身体にくっつけたヒヨコみたいな状態だ。
だから収入が安定するまでは、アルバイトを続けるつもりだという。

木佐としては、特に異論もない。
オーバーワークだけが心配だが、雪名を見ているとその心配はなさそうに見える。
大学に当てていた時間が、そのまま絵を描く時間になっているだけだからだ。
むしろ大学の頃より、時間には余裕があるくらいだ。

唯一、困っている問題はたった1つ。
未だに雪名はブックスまりもにやって来る少女たちに絶大な人気があることだ。
今も木佐が待ち合わせ場所にやってくると、先に来ていた雪名は数人の少女に囲まれていた。
みな同じ学校らしく、紺色のブレザースタイルの制服に囲まれている。
その真ん中にいる雪名は、あいかわらずキラキラオーラ全開だ。
さながら濃紺を彩る流星と言ったところか。

「まったく、どうしてこうなのかな。」
木佐は相変わらずモテまくっている恋人を見ながら、苦笑した。
付き合い始めた頃には、こんな光景を見るといちいち胸が騒いだものだ。
だけどさすがに最近は慌てるようなことはない。
どっちかというと罪悪感の方が強いだろう。
雪名は元々同性愛者ではない。
自分のような人間と関わったばかりに、道を大きく踏み外させている気がする。
それでも離れられないのだから、開き直るしかないのだが。

「木佐さ〜ん!」
ようやく濃紺から解放された雪名が、飼い主を見つけた飼い犬よろしくこちらに走ってきた。
モテまくる雪名には慣れたが、このまともに向けられるキラキラオーラには未だに頬が熱くなる。
思わず俯いてしまい、大きく深呼吸をして顔を上げた瞬間。
雪名の背後を歩いていた、よく知っている人物とモロに目が合った。
どうやら照れて赤面した表情を、まともに見られてしまったようだ。

油断していた。
ここは職場のすぐ近くだし、偶然出くわすことはあったはずなのに。
しかも最近、彼が隠しているであろう恋愛を知っていること匂わせたばかりだ。
これでおそらくこっちの恋愛も知られてしまっただろう。

木佐は諦めて、雪名に手を振った。
見ようによっては、彼にも手を振っているように見えるだろう。
何だか嫌な予感はするが、もう開き直るしかない。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ