夜5題

□夜景を見つめて
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「高野さんも知っていたんですね。。。」
完全にふて腐れた律は、窓際に立つと、恨めし気に夜景を見つめている。
高野はそんな横顔もかわいいと思っているのだが、当の律は知る由もなかった。

それは今回もバタついた入稿の時のこと。
吉川千春こと吉野の原稿を仕上げるのに、木佐に手伝ってもらった。
そして何とか原稿を書き上げた後、木佐は衝撃発言をしたのだ。

「俺の恋人も2人と同じだよ。だ・か・ら。男の人だってこと!」
木佐は律と吉野にそう言った。
つまり木佐には、律と高野が付き合っていることがバレていたということだ。
そして吉野の恋人も男なのだと断言した。
木佐が吉野のことに気付くとしたら、間違いなくエメ編の人間であるわけで、羽鳥しか考えられない。
どちらも律にとって、かなりショックだったのだ。

明け方に入稿を終え、始発電車で帰宅した律は、その夜、高野の部屋にいた。
自分と高野との関係を気付かれていることを、相談するためだ。
だが事の顛末を説明しても、高野は少しも驚いていない。
それどころか「お前、今頃何を言ってるんだ?」と呆れた顔をしていたのだ。

「俺とお前のことも、羽鳥と吉野さんのことも、みんなとっくに気付いてるよ。」
「そ、そうなんですか?」
「そうなの。気付いてないのはお前だけじゃねーの?」
「じゃあ羽鳥さんも美濃さんも気づいてたんですか!?」
「多分な」

あまりにも平静な反応に、律は肩を落とした。
他の全員が気付いていたことに、律だけが気付けなかった。
それはつまり「鈍い」ということだ。
今まで職場ではうまくやっていたつもりだったけど、実はそうではないのかもしれない。
律はますます落ち込んでしまう。

実は高野は意図的にバレるように振る舞っていたのだ。
それは独占欲から来る牽制だ。
羽鳥も木佐も美濃も、そんな高野に苦笑していたのだ。
もちろん高野は、それを律に教えるつもりはない。

「高野さんも知っていたんですね。。。」
完全にふて腐れた律は、窓際に立つと、恨めし気に夜景を見つめている。
高野はそんな横顔もかわいいと思っているのだが、当の律は知る由もなかった。
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