雷8題

□雷撃(らいげき)
2ページ/3ページ

「吉野さん、大丈夫ですか?」
律はベットに横たわりながら、震える吉野に声をかけた。
こちらに背を向けながら、身体を丸めている姿はひどく哀れに見える。
そして吉野をここまで追い詰めたのは自分のせいだと、律は内心ため息をついた。

雪名と間違えて、暴漢を部屋に招きいれてしまった律は危機に陥った。
馬乗りにのしかかられて、殴られ、首を絞められ、レイプされかかったのだ。
吉野は懸命に止めようとしたが、暴漢は屈強な男だった。
律を押さえ込みながら、吉野を床に蹴り飛ばすことを軽々とやってのけたのだ。

律は吉野だけでも逃げて欲しいと思った。
男は腕力があるだけではなく、どこで手に入れたのか拳銃まで持っていたのだ。
とても勝ち目はないと思った。
だが吉野は思いも寄らない行動に出た。
素早く男に駆け寄ると、男のポケットから拳銃を抜き取ったのだ。
そして男に向かって「離れろ!」と叫ぶ。
律に気を取られていた男がそれに気づいた時には、吉野は引き金を引いていた。

ちょうどその瞬間、窓の外で大きな雷が鳴った。
まるで雷撃を受けたように、男の身体が律の上で跳ねる。
吉野が撃った弾丸は背中から胸部に抜け、鮮血が律の身体に降り注いだ。
立ち上がった男が怒りの形相で、フラフラと吉野へと歩き出す。
恐怖に慄いた吉野がもう1回発砲し、今度は男の右足を打ち抜く。
形勢が逆転したことを悟った男は、そのままヨロヨロとした足取りで、部屋を出て行った。

「吉野さん!」
「どうしよう。俺、人を傷つけた。。。」
救いを求めるように律を見た吉野は、その姿に愕然とした。
律の顔や服は、男の返り血で赤く染まっていたのだ。

「うわぁぁぁ!」
半狂乱になった吉野が、悲鳴を上げた。
律はかける言葉も見つからず、呆然と叫ぶ吉野を見守るしかなかった。
そして吉野が疲れてその場に倒れこむのを待って、ようやくベットに寝かせることが出来たのだ。

「吉野さん、ごめんなさい。俺のせいです。」
目を覚ました吉野は、ずっとベットの上に寝そべったまま震えている。
律がかけた謝罪の言葉にも、反応を示すことはなかった。

吉野を守りきれなかった。
律は、自分の無力さをただただ悔やむしかなかった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ