空10題-曇・雨編

□新しい傘
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「ほんとに、しつこい」
三橋は冷ややかにそう言った。
だが相手の男もまた冷ややかに三橋をジッと見ている。

三橋は最近は落ち着いた日々を過ごしていた。
試合はどうにかこうにか勝ち進んでいる。
何とか関東大会、そして春のセンバツ。
部員たちの士気は上がっている。

三橋の「病気」も暴走することはなかった。
野球部員の協力を得て、時間を見つけてはトレーニングをしている。
こちらは目に見える結果は、実に出にくい。
だが三橋本人は、徐々に思い通りになりつつあることを痛感していた。
遊び感覚でやっているので、三橋にも部員たちにもいい息抜きになっている。
三橋にはさらに集中力を高める効果もあるようだ。
このトレーニングを始めてから、投球も良くなっている。
ハッキリと数字には現れていないが、三橋だけでなく阿部も感じているようだ。

そんな良いこと尽くめの日々だが、三橋は予感していた。
この状況は楽しいし、いつまでも続いて欲しいと思う。
だけどそんなことはない、どこかで終わる。

そしてその予感は当たったらしい。
部活が終わり、自転車で帰宅した三橋は、家の前に見覚えのある車を見つけた。
運転席の男が三橋に気付き、車を降りる。
三橋も自転車を降りると、男を見た。
対決は避けられそうにない。
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