小説2(大学生〜社会人)

□3年分のおめでとう
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「ただいま」と、マンションのドアを開けると、嬉しそうに擦り寄ってきた柔らかな体を引き寄せ、「レン、誕生日おめでとうな」と頭を撫でた。

「にゃあ」

数日前に品ぞろえの良いスーパーで購入したいつもよりちょっと高いネコ缶を開け、レン専用の皿に移し、足下に置くとヤツはオレからパッと離れ、バクバクと食事に貪りついた。
現金なヤツ。

「…お前がウチに来てもう1年か」

そしてアイツが去って2年。オレは未だに女々しくアイツのことを想っている。










2年前、突然居なくなった最愛の恋人、三橋廉。

原因はー。
多分いろいろ。
単純に好きだからって一緒に居られた学生時代とは違い、社会人も長くなってくると、同性であることに加え、仕事とか年齢とかいろんな悩みができた。すれ違いが続いていた。

ひとつずつはささいなこと。

でも三橋がオレの下を去ろうと思いきるきっかけはきっとオレが作ってしまった。

三橋とオレが恋人同士であることは周囲には、特に会社関連には内密にしていた。

だからか、フリーと思われたオレに会社の重役の娘との見合い話が持ち上がった。もちろん断るつもりではいたが、会わない訳にはいかない流れになってしまい、三橋に内緒で会うことになった。

それがいけなかった。


皮肉なことにその年は5月17日アイツの誕生日が休日で見合いがその日に設定されてしまったのだ。

見合いから帰ってみると同棲している部屋から三橋は居なくなっていて、代わりにリビングダイニングのテーブルの上に三橋が使用していたこの家の鍵と手紙が一通置いてあった。


『阿部君へ
もし最後の誕生日プレゼントをくれるなら、どうかオレのことは探さず、幸せになって下さい』


オレはそこでハッとした。見合いの用意やどう断るかということなどで頭がいっぱいで当日がまさか三橋の誕生日だなんて思ってもいなかったのだ。


オレはもちろん三橋を探した。

同級生のトコ。群馬の祖父の家。

三橋の実家にも連絡してオレが三橋に会いたがっていることを伝えて下さいと頼んだ。
おばさんはしばらく三橋は帰っていないと言っていたが、必死なオレを見て電話やメールで伝えてくれたらしいが、結局三橋からオレに連絡がくることはなかった。
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