小説2(大学生〜社会人)

□君を待つ
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※2012VD文。
社会人設定。二人とも会社員。
三橋→篠岡を含みます。




「…で、仕事で会えねえっつったらさ、電話の向こうでピーピー泣き出してさ。ホントマジめんどくさかったよ。で、もーこれ以上無理って思って、結局その場で別れた」

「阿部君、ソレちょっと冷た過ぎなんじゃない、か?」

「いーや、普通だよ。そもそも平日なのに、何がバレンタインだっつーの。『どうしても今日渡したいの!終電の時間とかでも構わないからいつまでも待ってる!』って泊まっていく気かよって。明日も仕事なのに嫌だよってなあ」


そんな会話をしたのが、去年のバレンタインの次の週末だった。阿部君はカノジョと別れて、暇になったと、オレを飲みに誘ったのだ。

阿部君はオレが高校時代バッテリーを組んでいた捕手だ。
阿部君は大学では野球はやらず、オレとは別の大学に通っていた。だが、オレにとっては離れてもやっぱり特別な存在で、ことあるごとに野球の相談に乗ってもらっていたのだ。
野球だけではない、時には私生活のことも相談に乗ってもらっていた。

初めてオレに好きな人が出来たとき、一番に相談したのも阿部君だった。

オレは大学生になっても高校時代マネージャーをやってくれていた篠岡さんのことが好きだった。でも、大学になって西浦のOB会でしか会わなくなって、どんどん篠岡さんとのつながりはなくなってしまって、焦って「どうしよう」って阿部君に打ち明けたんだ。

阿部君はすごくびっくりした顔してたけど、「お前もそんなことで悩む歳になったか〜」なんて、オヤみたいな発言をしてたっけ。

でも相談の甲斐なく、結局篠岡さんとは付き合うことはできなかったんだけど。


オレが篠岡さんに告白した時、篠岡さんは「ごめんね、私、告白するつもりはないけど、阿部君が好きなんだ」って言った。




阿部君はモテる。




オレが、阿部君に恋愛相談をして、しばらくして、阿部君に初めてのカノジョができた。

でもしばらくして別れて、次にまた告白されて新しいカノジョと。そんでまたしばらくして…って。

阿部君はカノジョが途切れたことがない。でもどのカノジョも一年もたずに別れている。社会人になった今もずっとそんな感じだ。

なぜオレがそんなに詳しいかというと、オレはいつも阿部君に恋愛相談と言う名のグチをいつも聞かされているからだった。



「…あーもー、女とかうるせーしめんどくせーし。もーイヤダー」

「じゃあ、付き合わなければいいじゃない、か」


オレは少し阿部君に腹が立っていた。

阿部君に初めて恋人が出来たと聞いた時、オレは篠岡さんにフラれた時以上のショックを受けた。そして実は篠岡さん以上に阿部君のことが好きだったんだと気づかされたのだ。

毎回阿部君の見てくれだけを好きになったカノジョとよく吟味せずに付き合い始め、結局すぐに別れる。
面倒がって、ちゃんと相手してあげる気がないなら付き合わなければいいのに。

オレは告白することもできない自身と哀れな阿部君の元カノ達を重ねていた。


「やー、だってさあ、やっぱ恋人欲しいじゃん?」


それは、性的な事情から、という意味なのだろうか。

いいかげんにしてよ、と言いそうになった時、ふいに阿部君が言った。


「なあ〜…三橋、…オレと付き合わねえ?」











酔っているのかと思ったけど、本気だったみたいで、それから付き合いはもうすぐで一年になる。

阿部君の歴代のカノジョが誰も越えることができなかった一年に。






夜、一人で部屋にいるとふいに電話が鳴った。

阿部君だ。


『…あのさ、三橋。今週の火曜なんだけどさ…会えねえ?』

「あ、えと…どうだろ。平日だよ、ね」

『うん、でも…少しだけでもいいからさ』


平日に会いたいと言われるのは珍しい。阿部君の声は少し緊張してるように感じられた。

もしかして、と思う。

ワガママを言った覚えはないが、歴代のカノジョと同じように「めんどくさい、別れたい」と言われるのだろうか。
阿部君はもう無理だと思ったら一刻も早くケリをつけたがるタイプだ。確実に会える次の休日を待たず、わざわざ平日にオレを呼び出すなんて、それはつまり。


「…わかった。でも仕事で無理になったらゴメン、ね」

『おう、待ち合わせなんだけどな、とりあえず場所はいつもの**駅前で、仕事終わったらお互い連絡するってことでな?』
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