小説2(大学生〜社会人)
□熱烈ダーリン。淡泊ダーリン。
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※大学、同棲設定。二人は別大学。阿部が淡泊。
三橋は男ですが、阿部は大学の友人に男と付き合っていることはもちろん隠しているので「カノジョ」と呼んでいます。
「はああ…」
オレは駅前のドラッグストアのスキンコーナーでその日何度目になるかわからないため息をついた。
買い物カゴの中にはコンドームのLサイズが一箱、二箱。しばらく考えてもう一箱カゴに入れたとき後ろから声がかかった。
「すっげー阿部、絶倫じゃん!」
聞き覚えのある声に振り返ると、ニヤついた男が立っていた。オレが所属する野球サークルでバッテリーを組んでいる大学の友人である。
いっそ無視しようと思ったが、オレ自身がそういうコトが大好きだと思われるのも心外なので、きちんと訂正しておくことにする。
「…絶倫なのはオレじゃねーよ」
「えーっ。『オレじゃねえ』ってことはぁ〜?」
「そ。」
そうオレじゃないのだ。
「ウチのカノジョ」
最近の悩みの種は専ら元バッテリーの相方にして現コイビト、三橋廉だった。
高校三年の夏、部活を引退すると同時に付き合い始めたオレ達は二人の大学の中間地点のアパートで同棲中で別の大学に通うラブラブカップルだ。
高校時代、最初のうちは全く意志疎通のできていなかったオレ達にしては大きな喧嘩もなく、本当に上手くやっていると思う。
…しかし、それもある一点を除けばの話だ。
昨日、テレビで放送されている映画を見ていたときのことだった。
オレがベッドに腰掛けながらテレビを見ていると、風呂上がりの三橋がちょこちょこと寄ってきて、オレの体の間にちょこんと陣取った。オレは後ろから三橋を抱きしめるような格好になり、三橋の胸の前辺りで緩く手を組む。
三橋は「えへへ」と言いながらオレの手のひらに頬を擦り付けた。
オレはこういう触れ合いが好きだった。ナニをするわけでもなくただ触れ合っているというのが、癒されるのだ。
オレはテレビを見ながら時々三橋の頭をなでたり、キスを交わしたりしていた。そして三橋も同様にオレの腕に抱きしめられながらオレの腕を撫でたり、時折振り返ってキスを仕掛けてきたりしていたのだが、そのうち映画に飽きてしまったのか、もぞもぞと動き始めたのだ。便所かな、と思い抱きしめている手を緩めてやると、三橋は二人の身体の間にできたわずかな隙間に手を割り込ませてきた。そしてその手が徐々に下半身に移動していき、緩やかに股間を撫で始めたのだ。
あまりにも緩やかなその動きに最初は股間を撫でられているという認識がなかったのだが、一旦気づいてしまえば、やはり意識がそちらに行ってしまうのを止めることができない。
オレは映画に集中できなくなり、最早ストーリーが全然頭に入ってこなくなっていた。
「…おい、三橋」
「…ふひ」
緩やかに頭をもたげ始めたムスコにさすがにこのままではマズイと思い三橋に注意すると、三橋はいたずらを見つかった子供のようにオレを見て笑った。
「しよ?」
せっかくのコイビトからのお誘いだが、無料の地上波とは言え既に1時間半も見続けた映画を途中放棄するいうのも今まで見続けた時間が無駄になる気がしてなんだか悔しい。
「…だめ。映画見てえし」
オレがあっさりと三橋の誘いを断ると、三橋は叱られた子犬のようにしゅん、となってしまった。もし今こいつに犬の耳はえていたなら確実に垂れ下がっていることだろう。「きゅーん」という鳴き声さえしてきそうな気がする。
オレは少しの罪悪感を誤魔化すため、言葉を続けた。
「だいたい昨日、もーゴムなくなっちまったじゃねーか。オレ今日授業5時間みっちりあって忙しかったから、まだ新しいの買ってねえし」
ゴムを買っていないのは本当だったが、買う暇がない、だからゴムがない、だからできない、というのはちょっとした言い訳だった。ほぼ毎日してるんだから今日もするだろうってのはちょっと考えりゃわかることなんだから、オレにその気があればちょっと高いけど近所のコンビニで買っときゃよかったんだ。それにゴムがないなら生でするって手もある。
なんだかんだ理由をつけて断るってことは、要するにオレはしたくないのだった。
三橋とは一緒に住んでいるというのもあって、ほとんど毎日している。回数もだいたい1回じゃ終わらない。
オレは三橋と一緒にいて、さっきみたいに抱き合ったりキスをしているだけで十分幸せだから、そこまで頻繁にヤんなくても満足だ(勿論したい時はあるけれど)。基本的にはキスもセックスもお互いを『好きだ』っていう気持ちを確かめ合う行為だと考えている。
だけど三橋は愛情云々よりもセックス自体が好きらしい。する時誘うのは三橋からがほとんどだし、回数とか頻度とか友達連中に聞く中でもオレ達カップルは多い方だと思う。まあ、気持ちいいし、オレ達の年齢じゃそればっかりになるのもわかんなくもないけど。
でもちょっとしたきっかけですぐセックスになってしまうのは、どうなんだ、って最近思い始めた。オレは『三橋が好きだからセックスしたい』けど、三橋は『セックスが好きだからオレとしたい』んだろうか。三橋は触れ合ってるだけで幸せという考えはないのだろう。
そうして突き詰めて考えているといつもどんよりした気分になってしまうのだ。