神桃学園

□拾
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「来年はない。私たちが、この学園を変えるから」

「潔いわね。でも一年なんてあっという間よ。大丈夫なの?」

 ――いや、一年もない。

「……私ね、覚悟も兼ねて、金色桃組の試験を受けることにしたの」

「先輩にはもう、云った?」

「それは、まだ……」



 演舞が終わると、ミチルは神谷と一緒に、汗の付いた剣を一つ一つ拭いていた。周りではもう、ダンスが始まっている。

「見ていたのか」

「そりゃあ、見てましたよ」

「そうか……」

「かっこよかったですよ」

 ミチルが云うと、神谷は顔をさらに険しくして「そうか」と云った。

「幸恵さんがね」

 ちょっとからかってやりたくなって、そう付け加えた。
 神谷は剣を拭く手を止めた。

「園田が、かっこよかったのか。そういうことだな」

「あ、はい」

 ――どうしたんだろう。

「もしかして、緊張してます?」

 云った後、ミチルも緊張した。デジャヴュだ。考えなしに云うのはもう止めよう。

「なんのことだ。緊張する要素がどこにある」

「はは、そうですよね……」

 まさか「私でしょう?」などと小悪魔な発言が出来るはずがない。

 それからも、神谷の様子は変だった。ずっと黙っているし、剣を運ぶときも全部で三回落としたし、倉庫の扉で手を挟むし。

「大丈夫ですか」

「それは、勿論だ」

 手を抑えて、痛みに顔を歪める神谷の姿に、ミチルは腹をかかえて笑った。

「あははっ、先輩最高です!」

 神谷が無言なので、ミチルも笑うのをやめた。祭の明るさや騒がしさから離れた場所独特の、静寂が訪れる。二人きりだと、意識せずにはいられなくなる。

 薄闇の中で目と目が合い、そのまま数秒――互いに視線を外せなかった。我に返り、ひやりとする。

「あっ……あの、私。用事があるので、行ってきますね! また、戻ってきますから!」

 神谷の返事を待たず、ミチルは全力疾走で、その場を後にした。

 ――何があったの。

 ただ目が合っただけなのに。大変なことをしてしまったように感じるのは、どうして。

 爆発しそうな心臓をかかえながら、ミチルは明かり気の乏しい管理塔へと向かった。



 管理塔には、校長室がある。それに、理事長室も。学園について調べるなら、一番いい場所だろう。

 三階まで一気に駆け登り、電気の消えた校長室の前まで来た。鍵が閉まっていたが、上の窓が開いていたので、よじ登って侵入した。楽々侵入できたのは、戦闘授業で鍛えられた腕力の賜物だ。

 テーブルライトだけ燈し、まずは引き出しを開けてみる。一段目には大量のお菓子が入っていた。続いて二段目。積み重なった紙が入っている。

 ――よし、きた!

 こういうのを待っていた。何か重大な書類的何かだ。そう思って、めくるも……。

「…………」

 永遠とゴザエモンのスケッチが出てくるだけだった。しかも、やけにクオリティーが高い。

 三段目、四段目もしょうもないものばかりだった。仕事をしている人の机とは思えない。

 ――校長はだめだ。理事長室に行こう。

 そう思ったときだった。

「いやあ、祭はいいですね、理事長先生。生徒たちの楽しい顔、僕ね、大好きですよ」

「はあ、そうですか」

 廊下から聞こえてくる二人の声。ミチルは素早くライトを消し、祈るように扉を見つめた。

 ――来るな。

 しかし、足音は明らかにこちらへ向かってくる。ミチルは一度深呼吸してから、周りを見渡した。

 ――どこか、隠れるところは。

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