神桃学園

□捌
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「手厳しいなあ、アツコさんは。まあ、これで本題に入れるわけだ」

 彩は落ち着かない様子で、両手をこすり合わせた。アツコは、忌ま忌ましげに他所へと目線を移した。

 リンタは、すべらかな口調で話しだした。

「第壱区の中心には、神桃木があってね。木に宿りし神のエネルギーである神氣は、第肆区まで達し、洞から流れ出す邪氣は、第弐区までを支配すると云われている。この神さまと云うのが変態野郎で、まあ昔はそうじゃなかったらしいんだけど。洞が開いてから、とにもかくにも若い娘が大好きで、一年に一人ずつさらっていくんだ。それも、容貌と心根の美しい娘を選んでね」

 ――カレンが、神さまに誘拐された。

 ミチルの頭には、自動的にそう変換されていた。

 カレンが神さまに選ばれたというのなら、納得できる。彼女の持つ美しさは本当に不思議で、人間離れしたものがあったから。たった少し話しただけだが、大袈裟ではなく、彼女は、聖女や天使に近い存在に思えた。

「そうして、神に見そめられた娘は、御神木のもとへ糸で引かれるかのように歩き出し、そこへ辿り着いたとき、神によってその清らかな心を奪われてしまう。恋に落ちる、と云えばわかりやすいかな」

「神に……恋を?」

 ミチルは目を見開いた。

「そう、恋だよ。彼女たちの末路は、哀れなものさ。神を愛し、愛し、愛し、ひたすら愛し、そうしている内に一年と持たずに衰弱して死んでしまう」

「なぜ! なぜ死んでしまうのですか!」

 綾小路が立ち上がった。
 リンタは、ちょい、と手動かし、座るように命じると、親指の先を唇におしあてた。

「君にはまだ分からないだろうけどね、命を懸けた愛というのも、あるんだよ」

 そうして、彩の方をちら、と見た。彩は気づかないふりをしている。リンタは、話しを続けた。

「だけど、その愛も一方通行だ。神桃木の神は、決して、巫女を心から愛しはしない。衰弱して、痩せ細ってゆく彼女たちを、最後にはあっけなく見殺しにするのさ」

 これが君の知りたかった真実だ、とリンタは締めくくった。そして、今までの真面目な態度を吹き飛ばすかのように、ふうっと息を吐き、椅子の背にもたれかかった。

 ミチルは、しばらく口を聞けなかった。なんだか頭がぼんやりする。どうしても、現実のこととして受け入れられない。

「学園は関係ない、ってことですか」

 やっとのことで口を開く。まあね、とリンタは答えた。

「ただ、学園も白影隊も、そんな彼女たちを利用しているんだけどね」

「利用……?」

 アツコが厳しい表情で席を立った。一度奥の部屋へと消えてから、透明な液体の入ったボトルを片手に戻ってくる。無言で机の上に置き、リンタと頷きあった。

「神桃木の樹液。これは、そう呼ばれているものだけど」

 そこで一拍置くと、じっと二人の顔を見た。

「正確に云うと、樹液の成分を含んだ、巫女の血を薄めたものなんだ。去年の、死んだばかりの巫女の血を」

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