神桃学園
□伍
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「俺のおかげだな」
「なんで、ですか」
「お前は納得できなくて悔しかったから、泣いたのだろう。俺はこの学園について、話せることは話した。涙が止まるのは計算の内だ」
「け、計算って……!」
ミチルは呆然とした。もう一度泣いてやろうか、と思ったが、それも阿呆らしい気がしたので、やめた。
「……まぁ、いいかあ」
涙は、乾いたのだし。
「これで、学園への不信は解けただろう」
神谷の言葉にミチルは頷きかけ、ハッと体を硬直させた。
「……信じられませんよ」
「な、なんだと」
だって、とミチルは云った。
「カレンちゃん、居なくなってしまったもの」
神谷の動きがぴたり、と止まった。なんともいえない表情をしている。ミチルは、神谷の反応をじっと観察した。
「……先輩。なにか、知ってるんですか」
鈴丘と同じように、彼も真実を知っているのだ。
神谷はしばらく黙り込んでいたが、やがて溜息を混じりに、心当たりはあると答えた。
「そのカレンという子とは友達だったのか」
「友達とまではいかないけど……入学式の日、馬車で一緒だったんです。それに、すごく優しくしてくれて」
「そうか。なら、彼女のことは忘れろ」
有無を言わさない口調に、ミチルは眉を潜めた。
「どうしてですか! 心当たりがあるのなら、教えてください」
「知りたいのなら、金色桃を手にしてから聞きにこい」
「それとこれとは話しが別です」
「別なものか」
神谷は諭すように云った。
「金色桃を持つ意志がないのなら、これ以上は関わらない方がいい」
「……カレンちゃん、危険なことに巻き込まれてるんですか」
「だったら、お前はどうする。自分の人生を懸けまで、助けに行くのか」
ミチルは言葉に詰まった。何だかひどく、自分が情けない人間に思えた。
つまり神谷はこう云いたかったのだろう。白影隊として、自分の人生をここに捧げる覚悟がないのなら、これ以上関わっても無駄なのだと。関わる権利などないのだと。
――私は無力だな。
正義感なんて、持っているだけでは何の役にも立たない。自分には何の力もないばかりか、確固たる意志さえない。
急速にしぼんでゆくミチルを見て、神谷はすまん、と謝った。
「酷(ムゴ)い質問をしたな」
「いえ……いいんです、もう」
なんとなく気まずい空気になってしまった。そして、沈黙に堪え切れなくなったミチルが口を開けかけたとき、
ぐりゅるるるぅ〜……
小春日和の静けさの中、ミチルのお腹が、盛大に鳴り響いた。石化した彼女を、神谷が冷静に眺めている。
「今のは放屁か?」
「先輩、殴っていいですか」