まあぶる物語

□夢みるテラスで
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少女が夢をみる場所は、いつだって素敵な窓辺でした。

ある夜、月が雲のあいまを泳ぐのを見ながら物語をかいていた少女は、ふと手を止めました。
空のはしから、エメラルド色の光が、こちらに向かってすいすいとおちてくるようです。

少女は弾かれたようにテラスへ飛びだすと、てすりから身をのりだして、目をおおきく開けました。やがてその瞳はきらきらと輝き、すばるの星さえもその眩しさに、思わず雲間にかくれてしまいました。

「お迎えがきたんだわ!」

エメラルドの光はテラスにの上でとまり、一度はカラスのようにふるえたかと思うと、光をぱあっとおおきく咲き広げました。

少女がぎゅっと目をとじてひらけると、そこにいたのは一人の少年でした。

「あなたが、わたしのピーターパン?」

少年はそれには答えずに、テラスのてすりに腰をおろして、にこにこと少女に微笑みかけました。

「ねえ、ぼくに物語をきかせて」
「やっぱり、ピーターパンなのね!」

少女は少年の手をとると、顔をちかづけて叫びました。

「ねえ、ねえってば!わたしをネバーランドに連れていって」
「ふふっ。こんなに強情なウェンディー、知らないな」
「いじわる!」

少女はテラスをステージに、ダンスをはじめ、あふれる嬉しさをひととおり消化したところで、口をひらきました。

「あのね。約束したの!この窓辺で物語をかきつづけていれば、いつか七人の小人か、かぼちゃの馬車か、もしくはピーターパンが迎えにきてくれるって!」
「約束……だれと?」
「決まってるじゃない。神さまとよ!」
「ふふっ、なるほどね。それで、ぼくがピーターパンってわけだ」
「ちがうの?」
「さあ、どうだろう……」
「あなたがピーターパンかどうかは分からないけれど、今ひとつだけわかったわ。あなたって、すっごく嫌な人!」

少女はふいっと顔をそらし、それから心配そうに少年にむきなおりました。

「おこった?もうネバーランドには連れていってくれない?」
「どうしようかなあ」
「……ピーター!」

じゃあこうしよう、と少年は苦笑しながら片手をあげます。

「きみが知っている世界をすべてぼくに教えて。そうしたら、ぼくの世界に招待するよ」
「わたしの、知っている世界?」

少女の顔は、とたんに曇りました。

「どうしたの」
「だって、わたし、この世界しか知らないのよ」

そんなの無理よ、と嘆く少女の頭を、少年はやさしくなでました。

「そんなことはないよ。だって、きみは無限の世界を知っているのだから」
「……そんなの、うそだわ」
「うそじゃないよ。実際、きみは想像できるだろう?そらの向こうに、無限の世界を。それを、ぼくにちょうだい」
「だけどそれって、詐欺にならないかしら。あなたは実際にある世界がほしいのでしょう」
「そうだよ。想像した世界が、どうして実際に存在しないんだい?」
「……」
「ふふっ、それじゃあ、逆にいうよ?……実際にないものが、どうして想像できるんだい?」

少女はポカンと口をひらけ、それからひょいっと首をかしげました。

「それはつまり、魔女や妖精や竜も、アトランティスやムー大陸も、存在するってこと?」
「さあ……どうだろうね」

意味ありげに笑った少年を、少女は軽くにらみつけました。

「教えてくれたっていいじゃない!あなたって、ほんとに嫌な人」
「きみは、ほんとうに可愛い人だね」
「なっ……」

少女は顔をまっかに染めると、テラスにぺたんとすわりこみました。両手を顔の前にかざしたまま、とうとう決心しをてつげます。

「わかったわ!語るわよっ。こころして、聞きなさいよね」

少年がうなずくと、少女は空にひとつ息をおとして、語りはじめました。


















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