神桃学園
□肆
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白い制服の人。
今までなんとなく(入学式のときの印象で)学園専属のお手伝いさんか何かだろうなあ、と思っていたし、それ以上意識したことはなかった。
だけど、改めて記憶を辿ってみると、彼らが普段の学園生活で、それらしき仕事をしている姿は、一度も見たことがない。市街区や《日向ノ路》などですれ違うことはあったが。
年齢は大体、二十代から三十代くらいまでだったろうか。男女共に居たが、どちらかと言えば男の人の割合が多かったように思う。
「なんで学園にいるのかな」
「生徒を見張るため、でしょうかね」
綾小路の言葉に、思わずミチルは身を乗り出した。
「見張りなんて!」
「しかし、悪魔でも推測です」
綾小路は白い歯を見せて笑うと、「というわけで」と指を立てた。
「さっそく神桃探偵団の出番ですよ!」
綾小路の目は、きらきらと輝いていた。
「ぼくは、神桃図鑑なるものをつくる!」
「はぁ、」
綾小路君ってば、ぜったい楽しんでる。
紫苑寮に帰ったあと、ミチルはあずまやの中で宿題をしていた。じぶんの部屋で集中できなかったため、夜風にあたれば、と下りてきたのだが、やっぱり綾小路の言っていたことが気になってしまう。さっきからペンは止まりっぱなしだ。
「ああもうっ、だめだめ。今は勉強に集中しないと」
「ミチルちゃん」
その声に、ミチルはどぎまぎした。
「幸恵さん、起きてたんですか」
あずまやの入り口に立つ幸恵は、少し怖い顔をしていた。
「今までどこに行っていたの」
ミチルは一瞬、なにも云えなかった。
「友達と、話してて」
「そう、それで。対面式にも、約束していた夕食にも、来なかったわけね?」
「……ごめんなさい」
幸恵はしばらく黙っていたが、やがて「ふふっ」と笑った。
「謝ることでは、ありません。本当はね、少し安心したのよ」
「えっ……」
「だってミチルちゃん、真面目すぎるんだもの。いつまででも私たちに気を使うし、そんなことでは疲れてしまうわ」
「……そんなことは」
ミチルが俯くと、幸恵はその肩にそっと手をおいた。
「あなたを見ていると、昔の自分を思い出すの。きっとあなた、この寮には居ずらいのね」
ミチルは黙りこんだ。
あのね、と幸恵は云った。
「私はこの寮も、この学園も大っ嫌いだったわ。もしこの学園に鬼がいなかったら、今みたいに居心地よく過ごせるようにはならなかったと思うのよ……私の場合はね」
鬼がいなかったら――?
このときのミチルには、幸恵の言葉の意味がよくわからなかった。聞き返そうとすると、幸恵はそれを遮るように口を開いた。
「それにしても、怒っていたわよ、神谷君」
「えっ、誰ですか」
「あなたのパートナー」
幸恵は楽しそうに答えた。
「男なんですか!」
ミチルが素っ頓狂な声をあげると、幸恵は「あら」と笑った。
「そんなの、驚くことでもないわ。なんといっても彼は、金色桃を持つ中でもトップクラスの生徒なのよ。少し変わった人だけれど、指導者としては申し分ないわ」
「そんな人が、私に?」
「対面式のとき、いなかったじゃない。それはもう、鬼のような顔をしてたわ」
「う」
とりあえず明日は日曜日で、学校は休み。すぐに会うことはないけれど、
「それで、明日の朝から迎えに行くって意気込んでいたわよ」
幸恵の言葉に、ミチルはうめいた。心が折れてしまいそうだった。