神と悪魔の『神生力』
□終章
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Ω
「お願い! 今すぐ救助隊を! 夜接夜が…夜接夜が!!」
空間移動をしてきた遊馬達を待っていたのは、たくさんの兵士と医師と、沢村と仁淀だった。
飛んできてすぐに遊馬は沢村へとすがり付く。
「落ち着きたまえ! 陸条陽葉を倒したと言っても向こうにまだ敵がいることには変わりがない。まずは兵を送り込むのが先決だ」
「そんな悠長にしてたら……!」
バシッ、という音。
それが自分の頬を叩かれた音だと認識するのに遊馬は少し時間を費やした。
「目が覚めたかい?」
叩いた本人、仁淀が遊馬にゆっくりと話し掛ける。
「いいかい? 君の我が儘にみんながどれだけ迷惑していると思ってるんだい? 君の言う通りに救助隊を派遣して、そして何人が死ぬと思うんだい? 彼らにだって仲間がある、家族がある、人生があるんだ。人の価値はそれぞれだけど、だからと言って好きか嫌いかで決められるほど、簡単じゃあないんだよ」
「……なら私一人でも――」
「どうやって? 君はヘリコプターや戦闘機や船を操縦出来るのかい? あの孤島まで泳いでいくつもりかい?」
それに、例え行けたとしても遊馬一人で敵の攻撃の中を潜り抜けられるはずもない。
それでは夜接夜が遊馬の手を取らなかった意味がなくなる。
「そんな……! なにも…出来ないっていうの……!?」
「まだ、手はある……!」
松葉杖をついて、周りの看護師の制止の声も振り払って、千里が部屋の扉の所にいた。
まだ麻酔が切れてないのか、崩れ落ちそうになるのを看護師が慌てて支えた。
「こっちから行くのが無理でも……向こうをこちらに飛ばせれば…俺の力なら、それが出来る」
「――っ!! その手があった!」
「いや、無理だね」
ようやく見えてきた一筋の希望をばっさりと切り捨てるような言葉。
それは千里のすぐ後ろから聞こえてきた。
「夜接夜の力を忘れたのかい? 『神の愛を奪う左[ラブレフト]』は全ての神生力を吸収する。それは千里の『神のサイコロ遊び[オルタナティブ]』だって例外ではないはずだよ。現に夜接夜は戦いの中で一回シゲが飛ぶのを防いでいるはずだよね」
「わっちゃん……」
斎藤先生に車椅子をひいてもらって、わっちゃんが姿を現した。
「でも、あの事件の日だって、今日も空間移動[テレポート]出来てたじゃないか!!」
「その説明は夜接夜からされたはずだ。夜接夜は一旦空間移動[テレポート]の神生力を吸収して、そしてまた出しているだけだ。あの時は無意識にそれをやっただけ。そして今は違う。無意識で吸収しても、『それが何か分からない』夜接夜は発動しようがない。そもそも、夜接夜に意識があるかどうかすら分からない……」