神と悪魔の『神生力』
□第三章
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清水沢静巳は廊下を歩いていた。革靴がリノリウムの床に着く度にコツコツと無機質な音を立てている。
(仁淀さんの話では、二人は確か612号会議室にいると聞きましたが……)
普通よりは少し頭が良いと自負している。実際にはかなり頭が良くて謙遜過ぎるぐらい、清水沢は記憶力や空間把握能力も優れている。
だが、この病院はそれを上回る程大きすぎる。内部構造もかなり複雑で、普通の病院を五つ重ねて纏めたような大きさと通路の多さを持っていた。更に何故か通路に標識があまりない。
「ふう…さて、ここはどこなのやら」
というわけで清水沢は目標を見付けられずにいた。簡単に言えば迷子である。
(これは一度誰かに尋ねた方が早いかもしれませんね)
清水沢は自分は普通よりは少し頭が良いと自負している。しかし過信はしていない。
頼れる時は頼る。そこにプライドなんて持っていなかった。
次に人に会ったり、扉が見えたらそこで道を聞こうと思って角を曲がると、
「………まあ、結果が良ければ…」
そこには612号会議室と書かれたプレートが掛けられてある扉があった。
ちゃんとノックをして、そして扉の前で待った。すぐに開けるような真似はしないのは、以前それで人の頭に扉をぶつけてしまったからだ。
(これでまた神寿さんの頭にぶつけたら、洒落になりませんからね)
しばらくして、扉が開けられた。
「……清水沢さん?」
「どうも神寿さん。……何故そんなに汗だくで?」
目の前にいる、顔中に汗をかいている夜接夜に清水沢は怪訝な表情を見せた。顔だけではない。シャツもズボンも汗で濡れている。
「秘密の特訓……ってやつかな」
「はぁ……」
例の会議が終わって二日。夜接夜はずっと遊磨と付きっ切りで何かをしていた。それは清水沢も知っている。
だがその内容は全く分からない。彼等は外部から遮断された部屋に篭って特訓とやらをしているからだ。
「お伝えしたい情報が。そういえば師宮遊磨は?」
「あ、はい」
夜接夜の隣に遊磨が現れた。彼女も全身汗だくで荒い息をしている。
「……妙な噂はたてられないように気をつけてくださいね。若い男女が部屋に篭りっぱなしというのは周りから見たら、かなり怪しいですよ」
「へ? どういう――」
「い、いや! 違うんですよ清水沢さん!」
夜接夜はわけが分からないといった顔を見せ、それを尋ねる前に遊磨が遮った。
「遊磨に限ってはそんなことはないとは思いますが……恋は盲目とは言ったものですからね……」
「こっ……! だから違いますって!」
キラリと眼鏡を光らせて呟かれる清水沢の言葉を、遊磨は顔を真っ赤にしながら否定した。