神と悪魔の『神生力』

□第一章
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Ω



 走ったって無駄じゃん。だって遅刻は変わらないし。
 そう考えて学生服を着た者は一人もいない大通りを一人悠々と歩く少年。名前は神寿夜接夜[かむほきよせつや]。只今十六歳。
 アイロンも掛かっていないヨレヨレのカッターシャツと傷だらけの黒いズボンを着て、胸には『方舟第七高等学校』の校章が一年生を表す赤で刺繍されている。

 第二十九通りでいつものように喧嘩している酒屋のオッチャン(五十二歳。頭頂部がハゲ)とパン屋のおばちゃん(四十七歳。太り気味)に声を掛けてから夜接夜は角を曲がろうとした。

「おっ、ちょうどいいじゃん。おい、オマエ」

「……んだよ」

 聞き覚えのない声に呼び止められ、嫌々声がする方へ夜接夜が振り向くとそこには夜接夜と同年代か少し上の年代層の不良少年が、つまり十六から十九あたりの歳の不良少年が五人いた。


「金持ってねぇ? 俺たち今金欠で困ってんだよぉ」

 軽薄な笑みを浮かべて一人の少年が近付いてくる。因みに夜接夜の財布の中身は千二百円。夜接夜なら後二三日は生き残れる額だ。その命綱[ライフライン]を手放すわけには絶対にいかない。

「俺みたいな極貧学生にたかるより自分で働いた方が稼げると思うぜ? 今なら体が資本の仕事はそこら辺の求人誌に山ほど載ってるだろうし」

「あぁ? んだと?」

 あ、なんだかメンドくさそうな展開。
 夜接夜は提げていた鞄を落とさないように更にしっかりと持ち直す。

「口答えしてんじゃ……!」

 猛ダッシュ!

 夜接夜は自分に詰め寄ろうとする不良たちに背を向け信じられない速さで逃走し始めた。
 あまりに唐突な行動に不良たち五人はポカンとして固まる。が、夜接夜に近付いていた一人がすぐに我を取り戻した。

「くっ、おい! アイツを追い掛けるぞ!」

 マジかよ! 俺なんか放っといて別の奴探せばいいじゃん! という夜接夜の心の叫びは不良たちには通じない。
 一人の呼び掛けに残る四人も頷きを返す。


「タケ、『神生力』!」

 タケと呼ばれた一人の少年が目を閉じる。すると少年の周りの空間が湾曲し始めた。やがて湾曲は少年五人を包み、その空間が光に満ちる。


「目標の精神体を発見、捕捉完了。バイパスラインの接合、2100から3580。コネクト開始まで3…2…1…転送!」

 目映いほど光が少年たちや周りを包み、そして一瞬にして消えた。


「ハア…ハア…ハア…ハア………! ちくしょー! 何で朝から走ってんだ俺!?」

 逃げ足には自信と定評を持つ夜接夜はひたすら学校へと逃げていたが、いきなり目の前に光の塊が出現し、中から先程の不良少年たちが現れたのに驚いて足を止めた。

「逃げれると思ったか?」

「『神生力』!? お前ら落ちこぼれじゃねぇのかよ!」

「馬鹿にするなよ。タケの能力は『接続転送[コネクトバンド]』。顔が思い出せるような奴の所なら誰でもどこでも飛んで行けるのさ。こう見えてもタケはDランクだぜ?」

「くっ……!」

 夜接夜は半歩後ろに退いたが不良少年たちは逆に間合いを詰めてくる。

「……ちっと痛い目に遭わねぇと理解出来ねぇようだな。自分の立場がよぉ!」

 突然声を荒げた少年の右手に釘バットが現れた。

「こいつも……!」

「『鉄撃悪夢[バットドリーム]』! 普通のバット以上に硬くて凶悪な一品だ。何度でも出したり消したり出来るしな。さっきの無礼はこれ五発分で許してやるよ。ま、骨の一本や二本はご愛嬌ってな」

 ガスン! と、地面を一発叩いて威嚇する。その際、アスファルトに盛大に皹が入ったことが、その威力を如実に語っていた。

(おいおい……! 骨の一本や二本で済まねーって!?)

 普通のバットなら普通に逃げれば、その重さが故に夜接夜には追い付けないだろう。だが『神生力』となれば話が別だ。自分にはより軽く、相手にはより重く。武器顕現型の能力とはそういうものなのだ。
「うおりゃあ!」

 その見た目からは想像出来ない速さで振り切られたバットは、確実に夜接夜の右肩を捉えていた。


「うおぉぉぉぁぁぁ!!」
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