神と悪魔の『神生力』
□プロローグ
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五月十一日(水)
メーデーメーデー。
と言っても国際的労働者祭の方ではない。フランス語で『助けてくれ』という意味合いの方である。
まあ、この日記が治安維持機関[ジャスティス]や秩序保全組合[レギオン]の皆さんの目に触れているという事態になっている頃には、俺は九割の確率で焼死体で発見されていることだろうが、備えあれば憂いものなしの精神でこの日記を書く。
今日もまた、遊磨に追いかけ回された。
今回の騒ぎの被害は電波受信塔が一つ全壊、警備ロボ・消火ロボ合わせて七台が全壊もしくは破損、その他被害者十数名……などなど甚大である。
(ここに俺はその事件に対して何の責任もないことを明記しておく。あくまで俺は逃げ回っていただけで全ては遊磨の仕業である)
いくら方舟で三百五十人しかいないBランカーでも、これほどの損害で逮捕されないほどの免罪特権はないらしい。治安維持機関[ジャスティス]の皆さんの多大なご尽力により捕縛された。明日からは比較的平和な日常が約束されている……はずなのだが……。
メーデーメーデー。何か嫌な予感がする。明日、俺の運命を全て捩曲げてしまいそうな出来事が起きそうな、起きなさそうな……スゲェ曖昧な気分。
俺たちはいつになったら方舟から出られるのだろう。今現在において、方舟から外に出て活動しているCOIはたったの五人。しかも全員Sランカーらしい。
つまり最低条件Sランクにまで上がらないといけないのだが、『神生力』の兆候である脳の波動が全く感じられないHランクの俺には先の遠い話だ。
今日のニュースでは、東京の謎の落雷が落ちた他に俺たちについて挙げられていた。
『普段使われていない脳を活性化させる薬、通称『神愛[ゴッドラブ]』の副作用に巻き込まれた少年少女たち』
言葉にしたら簡単だが、かなり人道的ではない行為だろう。何せ数十万人の子供がこの薬によって『神生力』なるものが生まれ、そして方舟と呼ばれる人工孤島に閉じ込められているのだから。
とは言っても、人権的な問題で俺たちは島の中なら普通以上の特権が約束されているし、COI専用のカリキュラムが組まれた授業を除けば一般とは変わらない生活は送れている。
が、だからと言って不満がないわけじゃあ、ない。
メーデーメーデー。俺の救難信号をどうか受け取ってくれ。焼死体になる前に。何故俺は意味の分からない脳の使い方の授業と炎を所構わず撒き散らしてくるイカレ女に毎日付き合わされて追われているんだ?
青春? ンなものありゃしねえ。俺の目の前にあるのは科学と超能力が支配する馬鹿馬鹿しい世界だけ。だから、
メーデーメーデー。だれか俺を救い出してくれ。この意味不明で、比類なく楽しい世界から。