神と悪魔の『神生力』
□第四章
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「清水沢さん……! 何故アンタが……!」
「先程から言っているはずですが。私は裏切り者です」
夜接夜とカンナは清水沢に相対する。対して清水沢は、夜接夜の糾弾を些事に過ぎないという風に飄々と受け流していた。
「陸条陽葉の攻撃を喰らって気絶してたんじゃねぇのかよ、アンタ……」
「気絶したフリです。その方が都合が良かったので。打ち合わせ通りでしたし」
遊磨をそっと地面に置いて、眼鏡をかけ直す。それは、いつもと変わらない清水沢の仕草で、夜接夜達は戸惑うしかなかった。
「なんで…なんで裏切った!」
「正確に言えば私はスパイでしたので。裏切るのは当初の予定通りです」
「アンタ…陸条陽葉が何をしようとしているのか分かってんのかよ!! 方舟で大勢の命を救ったんだろ? そんなアンタがなんで大量虐殺に手ェ貸してんだ!」
「命を救ったのは信頼させるため。ただそれだけですよ」
冷徹なまでに言い切られた言葉に、夜接夜は頭を熱くさせる。ギリッ、と奥歯を噛み締める音が隣のカンナにまで聞こえた。
「……なら、方舟で俺達を助ける意味は? アンタ、陸条陽葉に味方してんだったらあそこで俺達を見殺しにしても良かったはずだ。ここまで連れて来る必要もねぇだろ?」
静かな口調。
しかしそのギャップが更に夜接夜の怒りを表していた。津波の前の引き潮、大地震の前の初期微動、そのように聞こえた。
「……実は言うと、私は陸条陽葉さんの考えに賛同しているわけではありません。私には日本が覇権を握ろうが、COIが政府の手先として使われようが、興味はありません」
「なっ!?」
興味がない。
世界を揺るがす程のことを、COI全員の未来が掛かっていることを、その一言で片付ける。
「……人の命を何だと思ってんだアンタはっ!!」
夜接夜は駆け出していた。
左手で拳を作って、清水沢に向けて放つ。しかし清水沢は宙に跳んでそれを回避した。
おそらく、念動力[テレキネシス]が作用しているのだろう、夜接夜の身長の三倍近い跳躍だった。
「『悪魔の正義を与える右[ギブライト]』!」
すかさず夜接夜は右手を清水沢に向ける。陸条陽葉の雷が、清水沢へと襲い掛かった。
しかし空中では有り得ない動きで、清水沢は楽々それを躱した。これも念動力[テレキネシス]のおかげか。
「あなたの怒りは尤も。しかし私にはそれら全てに代えても守りたいものがあるんです」
「守りたいもの…だと?」
着地した清水沢へ追撃をかけようてしていた夜接夜の足が止まる。
「ええ。私自身以上に、守りたい、掛け替えのない、私の全てです。分かるでしょう? あなたにも」
「……分かんねーよ」
頭を振って夜接夜は否定する。
「俺にも大切なモンはある。でもそのために罪のない人を犠牲にするなんて……」
「あなたらしい意見ですね。しかし私は違います。私はそれが出来る。それを守るためなら、私は悪になろうと死のうと、関係ありません」
「遊磨を傷付けてまでか…? アンタを慕っていた遊磨を傷付けてまで、それは成し遂げる価値はあんのかっ!!」
夜接夜の怒りに、しかし清水沢は鼻で笑う。
「そういえば質問に答えていませんでしたね。私があなた達を守る意味について。簡単ですよ
――遊磨を守るため。私の行為にそれ以外の目的はありません」