SLAM DUNK

□中編
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体育館の外に設置されている水飲み場で唯は頭を垂らして言葉通り頭を冷やしていた。
睫毛、鼻先、唇からどんどん水が伝って落ちていく。
瞬きをすると目の中に水が入り、コンタクトレンズがずれて痛かった。


少しして背後に気配を感じた唯は頭をあげて振り返る。
その際に水の滴った髪の毛が一気に胴体を流れ落ちていった。

「馬鹿ね。何やってんのよ。」
「どうせ馬鹿だもん…」

唯は恵から視線を逸らして口を尖らすと帰ったんじゃなかったの…と呟いた。
また減らず口を、と恵は咎めようとしたが、先に「いや、違うの…ごめん」と謝られた為、口には出さなかった。

「とりあえず着替えてきなよ。下着透けてる。」
「…うん。」

トン、と唯の背中を押すととぼとぼと更衣室へと歩いていった。
それを見つめて恵は溜め息を吐く。
何て不器用な子なんだろう、と。

「いいとこばかり見せてどうすんのよ…まったく。」




少しして体育館の扉から部員たちがぞろぞろと出てきた。
それに気づいた恵は水飲み場から少し離れた花壇のほうへと移動し、藤真を目で探した。

視線を感じた藤真は、皆が水飲み場へと向かう中、恵の許へと歩いていく。
唯は?と話しかけると恵は水飲み場を指示して「あれと同じことしてましたよ」と言った。
藤真は指先のほうへと視線をやると、皆が皆、揃って頭を垂らして水を浴びていた。

「え。」
「ええ、そりゃびっしょびしょに。あ、ピンクでしたよ。」
「ピンク?」
「下着。透けてたんで。」

一瞬想像してしまった藤真は手に持っていたタオルを地面に落としハッとした。
あ、想像しましたー?と恵ににっこり笑われたが、冷静にタオルを拾ったあと恵の両頬を片手でぎゅむっと掴む。

「〜っ!」

べしっと藤真の手を払い除けて「唯と同じことしないでください」と恵はキっと睨んだ。
「いや、俺も片瀬にそれされたいなと思って…」とぼやくと恵は後退りし「藤真さんて見掛けによらずM!?」と吐き捨てる。

笑いながら冗談だよ、と言うがいや今のは本気だっただろと疑いの眼差しを藤真に向けた。

「なぁ坂下、」
「なんですか。」
「お前の前では片瀬ってあんな感じなのか?」
「そうですね。あんなんですよ。年上なのか年下なのか分からんお姉さんです。」
「へぇ。」

付き合い始めて早一ヶ月。
唯のことは誰よりも見てきたつもりだったのに、そうじゃなかった自分が何だか情けなく思った。

「片瀬も胡坐かくんだな。」
「ええ、特にイラついてるときは。舌打ちもしますよ。」
「アハハ。」
「あんな風に感情的にもなるんだな。」
「一見クールでドライですからね。」

情けなくも思ったけれど、なぜだか笑みがこぼれてきて、自分自身おかしかった。
そんな藤真に恵もつられて笑った。


「藤真さん、」
「…ん?」
「藤真さんならきっと大丈夫ですよ。」

それはどういう意味か…喉まで出かかったが言うのをやめた。

唯は今、更衣室で着替えているという。
俺行っていいのかなとか藤真が不安そうに言ったため、恵がだから大丈夫だってと苦笑した。





「あっつい。」

恵は太陽を見上げてそう言うと『先に帰るからね』とだけ唯にメールし、翔陽を後にした。


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