Short story

□奮闘!看病日記
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*白石side*



〜♪〜♪〜




長らく、鞄の中から鳴り響く携帯の着信音。



画面には"越前リョーマ"と表示されていても、俺が出ることはなかった。




出れなかった。正確には出れる状況やなかった。








白「は…!!」




パコーンパコーンとテニスボールが壁に打ち付けられる音が響く。


越前家の裏にあるお寺で、それは行われていた。




まるで何かを忘れようと言わんばかりに、俺は無我夢中でラケットを振り、高速で壁打ちをする。


一際強い打球を打ち、ハァと息を整えながら膝に手を付けた。




白「(相手は病人、病人なんや…!)」




今一度意識を固める為に、心の中で何度も繰り返す。


この考えを失ってしまったら…確実に理性が保てなくなるから。




白「(俺、末期なんやろか…)」




りんちゃんは高熱に犯されているというのに、ふしだらな考えを持ってしまう自分が情けない。




いつもりんちゃんは可愛い。寧ろ可愛くない時なんかない。



せやのに…そこに甘えたがプラスされてもうたら、もう太刀打ち出来ひん。




俺はテニスボールを握り締め、自分の感情を押し殺すしかなかった。



















『蔵ノ介さん…?』



白「っ!?」



『蔵ノ介さんっ』



白「……はい」




一人きりの格闘が終わってりんちゃんの部屋に行った時に、急に呼ばれた。


ちゃんと寝てなきゃアカンやろ?ほら、布団もちゃんとかけな。
そんなことを言いながらも、心の声は「天使」という言葉で爆発しそうやった。



ほんまにこの子は…いつもは滅多に名前で呼ばへんくせして。




『えへへ、蔵ノ介さん///』



白「はいはい、りん」




仕返しに呼び捨てで呼んでみたら、元から熱のせいで赤い顔は更に真っ赤になった。


思わずぷ、と笑ってまうと、カーッと更に顔を赤らめるりんちゃん。




白「何や?りん、あれだけ名前で呼んどいて」



『!白石さんは、駄目なんです…っ』




何やそれと笑うと、りんちゃんは顔を隠すように布団を被ってしまった。

動作が小動物みたいで、またくすくすと笑ってまう。




『…帰っちゃう?』




途端に、か細い声で聞かれる。



俺は立て膝をついて、少しだけ出とる頭を優しく撫でた。




白「大丈夫、一緒におるからな」



『ほんと…?』



白「うん」




余程心細いのか、りんちゃんは何度も何度も確認をとる。


『約束』と布団からおずおずと出した小指に、俺は迷うことなく自分の指を絡めた。



出会った頃から変わらないなと口元を緩めると、俺を不安そうに見上げていたりんちゃんはふわりと微笑む。


やがて安心したのか、すー…と寝息をたてて眠りに落ちたみたいやった。




白「…人の気も知らんで」




安心しきった顔で眠るりんちゃんの頭を、ゆっくり撫でる。



無駄に体力を消耗した気がしても、この寝顔を見たら何でも許してまう。




いつもりんちゃんは聞き分けが良すぎるから。

こんな風に熱が出た時に甘えるのは…その反動かもしれへんな。





俺は次第に重たくなる瞼に抗うことなく、静かに目を閉じた。




















『………うう、』



白「…りんちゃん?」




苦しそうな声が聞こえて、ベッドに伏せていた顔を上げた。



今まで気持ち良さそうに寝ていたりんちゃんは荒い息を繰り返し、額に汗を滲ませていた。




白「大丈夫?苦しいん?」



『…う』




慌てて身体をお越し、額にそっと手を乗せてみる。


熱は上がっとらん思うけど……



心配するしかない俺に、りんちゃんの口から出たのは予想外の言葉やった。




『下着……苦しいです、』







…………………下着?




もぞもぞと身体を捩らせるりんちゃんを、俺は目を点にして見つめる。



下着っちゅーことは……ぶ、ぶらじゃーのこと言うとるんやろうか。




白「………」




途端に、顔がカーッと熱く上昇していく。


りんちゃんはそんな俺を気にせず自分で外そうと頑張っていたけど、手がいうことを利かへんみたいやった。



終いには『はずして…』ととんでもないことを言われ、俺の思考は完全に停止した。




『う……』



白「…………」



『くるし…っ』



白「…………」




次第に意識が戻ってきた時、羞恥心より罪悪感を感じた。


目の前で好きな子が苦しんどるのに、放っておくなんて最低や。




俺は覚悟を決め、りんちゃんのパジャマへ手を伸ばした。




白「(何も感じない何も聞こえない)」




心を静めて、煩悩を追い出すんやって銀がいつも言っとるしな。


チームメイトを思い出しながら漸く1つ目のボタンを外した時、りんちゃんが反対を向いてしまった。


…となると、必然的に俺もベッドに上がることになる訳で。




りんちゃんを組み敷いた状態になっても、俺は必死に"無"を貫き通していた。




『う……はやく…』




せやけど、見てしまった。




白い頬は桃色に染まり、長い髪は汗で張り付いていて。


苦しそうに息をして、大きな目に涙を浮かべる姿を。





自分でもドクンドクンと鼓動が速まっていくのがわかる。



もう一度、彼女が身を捩った時、プツンと何かが切れた音がした。






もう、最低でも何でも構わへん。





本能のまま顔を近付けていき、その唇に触れようとした。












倫「ただいまー!」



南「りん!お父さんが来たから大丈夫だから、な…………」




バンッと部屋の扉が開き、そこにはりんちゃんのお母さんとお父さんがいた。


目を丸くした2人と視線が合わさる。




りんちゃんの上に乗り、ボタンを外しにかかっている俺は、勘違いされても仕方がない状態で。


「あら?お邪魔だったかしら」といつもと変わらない様子の倫子さんに、「…いえ」と返した声はあまりにも掠れていた。




南「〜〜っっ今すぐりんから離れろ!!このエロガキ!!」




顔を真っ青にする俺と違い、りんちゃんはスヤスヤと穏やかに眠っていた。






















***



今にも射殺されそうな目付きで睨まれていた。




リョ「…………」




床に正座し、正面に座る南次郎に先程から睨み付けられている白石を、リョーマは見ていた。



電話が繋がらないので、学校が終わると猛ダッシュで帰ってきた。
…のだが、そこには既に出掛けていた両親がいた。


そして、何故か白石が正座させられていたのだった。





倫「蔵ノ介くん、そんなことする必要ないのよ?付き合ってるんだし、何の問題もないわ」



南「なぁ…!見境がないにもほどがあるでしょーが!」



白「…………」




「ブラジャーを外そうとして」
と真実を述べても、逆に誤解を招くだろうとわかっていたので白石は大人しくしていた。



「蔵ノ介くんって姿勢がいいのねぇ」と正座姿まで誉め出した母は、きっと彼が何をしても良く見えるのだろう。




リョ「りん、」




うーちゃんを持ち、ぼおっとした様子のりんが立っていた。


キョロキョロと顔を動かし、白石の姿を瞳に入れると…その膝に頭を付けて寝転んだ。




『えへへ///』



白「りんちゃん……」




状況を理解していないのか、無邪気に笑うりんにきゅーんと胸が締め付けられる。


娘をとられただけでなく、恋人同士のような(※恋人です)掛け合いを見せられ、南次郎はわなわなと震えた。




南「りんちゃんほれ、お父さんの膝も空いてるぞ」



『や…っ』



リョ「りん、白石さん困ってるから」




リョーマの言葉には素直に従い、コクンと頷くととぼとぼ歩き出すりん。

今度は兄の膝の上でくつろぎ始めた。




菜「(リョーマさんったら、)」




彼氏と息子に負けて脱け殻のようになる南次郎と、何処か勝ち誇った様子のリョーマ。


そんな男達の心情も露知らず、りんは幸せそうに眠るのだった。
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