Short story
□奮闘!看病日記
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いつも他人のことばかり考えて、自分のことは後回し。
人に迷惑がかからないようにと、遠慮している。
そんなりんだから、甘えて欲しかった。
甘えて欲しかったけど、
白「(…これは、アカンやろ)」
あれから、りんを部屋に運んだ。
運ばれている最中、白石を見上げながら『王子様』と呼び、何故か喜ぶりんを見ないようにして歩くのは、大変だった。
しかし…何度ベッドに下ろしてもりんは再び階段を下りてきて、白石を見つめるのだ。
だから仕方なくリビングで食べることにしたのだがー……
白「りんちゃん、ほら、」
『あーん』
食べやすいように白石がスプーンを近付けると、パクッと口に運ぶりん。
モグモグとハムスターのように食べるりんは、「熱くないか?」と聞かれコクンと頷いた。
白石は微笑みを浮かべているが、その心情は全く穏やかではなかった。
白「(地球人とは思えん可愛さや)」
逆に冷静になり、そんなことを思ってしまう。
椅子に座ってからも、何かを訴えるようにじーっと見つめてくるので、白石が食べさしてあげることにした。
その度に幼い子供のような、はたまた小動物のような動作を見せられ、白石は一々ときめく羽目になっていたのだ。
白「美味しかった?」
『はいっ』
本当に美味しそうに頬を緩めるりんに、作った甲斐があったと嬉しくなる。
本日何度目かのじーっとした視線を感じて、「ん?」と聞くが、
『ブレザーじゃない白石さんも、かっこいいです///』
白「!?」
間近で無邪気な笑顔を見てしまえば、白石の顔は赤く染まった。
他の女の子に「かっこいい」と言われるのと、りんから言われるのじゃ全然違う。
白石はキラキラした瞳で見上げてくるりんから視線を逸らしながら、「そーか…」と呟く。
料理をする時に邪魔だから脱いで良かった…と強く思った。
白「さ、薬飲んで寝よーな」
『や!です、』
白「嫌って…ちゃんと飲まな治らへんで?」
それでも嫌々と首を横に振るうりん。
粉薬って訳でもないし、ここまで嫌がる理由がわからない。
ぷくぅと頬を膨らませたりんは、白石のYシャツの裾を遠慮がちに引っ張った。
『お薬飲んで良くなったら……白石さん、帰っちゃうから』
白「………………………」
白石ビジョンじゃなくとも、捨てられた子犬のように瞳を潤ませるりんは相当な破壊力だった。
白「(アカン…可愛すぎて)」
「目眩が……」と口に出した直後、くらりと視界が霞んだ。
堀「しっかし休みかと思ったぜ」
カチロー「でも良かった、心配してたんだよ?」
カツオ「そうそう」
無事、テストを受けることが出来たリョーマ。
最後の科目を控えた休み時間、堀尾と、隣のクラスのカチローとカツオがやって来た。
その声に、リョーマは窓の外をぼんやりと見つめていた視線を教室に向けた。
堀「今日部活来ないのか?」
リョ「まぁね。先輩達に言っておいて」
「しょうがねーなー」と何故か威張る堀尾の隣で、「リョーマくんってりんちゃんに優しいよね」とヒソヒソと残りの2人は話していた。
その時、ガラッと教室のドアが開くと同時に、「リョーマ様〜!!」と賑やかな声が響く。
ハートを飛ばしながら向かってくる朋香に、リョーマではなく堀尾がげんなりとした。
カチロー「小坂田さん、そろそろ授業始まっちゃうよ?」
堀「そうそう、何しに来たんだよ」
朋「あんたに用はないわよ。私はリョーマ様が登校したっていうから挨拶しに来たの!」
リョーマに話し掛ける時だけ声がワントーン高くなるが、今更驚きはしない皆である。
朋「リョーマ様ぁ心配してたのよ、ね!桜乃」
桜「う、うん」
いつの間にか輪に加わっていた桜乃にも、誰もツッコむことはない。
「りんちゃん大丈夫?」と気になっていた桜乃は控え目に聞くと、「白石さんが見ててくれてるから」とリョーマは簡潔に答えた。
カツオ「え、大阪から来てくれたの?」
カチロー「そうなんだ、じゃあ安心だね」
朋「ええ!でもそれって危ないんじゃ……」
つい最近、少女漫画で彼女の看病をしていた男が、我慢出来ずに襲いかかる…という話を読んだばかりだったので、朋香は過剰反応してしまった。
朋香に(無理矢理)漫画を貸して貰っていた桜乃も、つられてコクコクと頷く。
聞かされたリョーマはそんな馬鹿な…と呆れたが、はたと思い出した。
りんは、熱を出すととてつもなく甘えん坊になることを。
その甘えっぷりは、以前、お見舞いに来た青学のメンバーが頭を抱えるほどだった。
誠実な白石なら大丈夫だと思って任せてきたが、あの溺愛ぶりだ。
甘えん坊に豹変したりんを前に、平気でいられるだろうか…?
リョ「…………帰る」
朋「え、リョーマ様!?」
カチロー&カツオ「「リョーマくん!?」」
すくっと席を立ち、鞄を持って歩き出したリョーマを皆は必死に止める。
目が冗談ではなく本気だと物語っていた。
カチロー「電話!白石さんの携帯に電話してみようよ…!」
リョ「………」
あと1教科なのだ。折角登校したのにここで帰ったら意味がないと、皆の心の声は一致していた。
カチローの強い説得にリョーマは微かに眉を寄せた後、渋々と携帯を取り出す。
それを耳に当てる様子を皆はドキマギしながら見守るが……相手は出ないようで、パタンと静かに閉じられた。
リョ「帰るから」
「「「「リョーマくん・様・越前!!!」」」」
結局、渋々と言い捨て教室を出て行こうとするリョーマを、皆は身体を張って止める羽目になるのだった。