Short story

□奮闘!看病日記
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白「そーいや越前くん、学校はどないしたん?」




2人で床に座り、暫くりんの様子を見ていると、白石が思い出したように尋ねた。




リョ「りんの学校には休むって連絡して、俺の学校にもさっき電話したっス」



白「青学は試験とか終わっとるん?」



リョ「……今日から」




「ええ!?」と思わず大声を上げてしまう。


白石は直ぐ様ベッドに視線を向けるが、スヤスヤと眠るりんにほっとした。




白「それ、大丈夫なん?」



リョ「まぁ…一応他の日に受けていいそうなんで、」



白「せやけど面倒やないか?」



リョ「別に。でも…英語の先生が結構厳しいっス」




それも、特別自分にだけ。


英語の時間、良く居眠りしているにも関わらず、当てられたらスラスラと答える様が気に入らないらしい。


長年アメリカにいたリョーマにとって、授業で習う英語は簡単すぎて、子守唄にしか聞こえないのだ。




そんな先生が聞いたら激怒しそうなことをリョーマが思っている間に、白石は別のことを考えているようだった。




白「ほんなら、越前くんは今から試験受けにいき」



リョ「え、」



白「もう終わっとる教科はしゃーないとして、間に合うのだけでも受けた方がええで」




以前、青学との合同練習の時、手塚が青学は出欠に厳しいと言っていたのを思い出す。



りんの寝顔を見ながら躊躇うリョーマに、白石は「大丈夫やで」と笑った。




白「りんちゃんのことは俺に任せとき。せやなかったら、わざわざ大阪から来た意味ないやろ?」




リョーマにしても、まさか本当に来てくれると思ってなかった。




そんな彼になら、りんを任せられるかもしれない……



「よろしくお願いします」と言ったリョーマの頭を、白石は「うん」と再び撫でたのだった。




















リョーマが学校に行ってから、1時間が経った。




白石はりんの額に乗せるタオルを替える為に、こまめに階段を下りて台所へ向かう。

再び上り、それを乗せるー…を何度も繰り返していた。




そんな時だった。







『………う、』



白「りんちゃん、目ぇ覚めたんか?」




ゆっくり瞼が上がると、大きな瞳が顕になる。


顔を動かし、床に座る白石を見た瞬間、『白石さん……?』と小さく呟いた。




『なんで……』



白「越前くんから電話もらってな。りんちゃんが心配で来てもうた」




力なく笑う白石に、りんの表情は次第に驚きから笑顔に変わっていく。


さっきまで苦しそうに息をしていたというのに、『嬉しい』とふわふわ口元を緩めた。




そんなりんに白石はドキッとする。




白「大丈夫か?何か欲しいもんある?お腹空いたとか、」



『えっと…』




喉も痛いのか、いつもより弱々しい声で話すりん。


無言のまま見つめてくるので首を傾げていると、布団からちょこんと手を出した。




『手、握って欲しい…です』



白「………え」




じっと物欲しそうな顔で見てきた理由がわかって、白石は一瞬固まった。

りんがお願い事をするなんて滅多にないからだ。


それは嬉しくも恥ずかしくもあり、白石は「ええよ」と優しく手を握った。




白「わ…っりんちゃんの手熱いなぁ」




小さな手は、火傷しそうなほど熱くて。


そんなに高熱なのかと心配して顔を覗き見ると、白石の手をきゅっと握り、目を瞑るりんがいた。




『……白石さんの手、冷たくて気持ちいいです…』




そう呟き、桃色の頬にピタッと付ける。



本当に気持ち良さそうに瞳を細めるりんに、白石の顔もカーと赤くなっていった。


相手は病人なんだと自分に言い聞かせていると、りんは更に追い討ちをかけてきた。




『頭も…なでなでしてほしいです』



白「…っっ!」




動揺しながらも平静を装い、言われるがままに頭を撫でる。




白「(一体どーしたんやろ…)」




熱のせいで人肌が恋しくなっているのだろうか。


甘えてくるりんはとても可愛いが……心臓に悪い。




白「…な、何か作ってくるわ。お腹空いたやろ?」




途端に、行っちゃうの?と言うように寂しそうにしゅんとするりん。(←白石にはそう見える)


瞬間、胸にきゅーんとハートの矢が刺さり、「く…っ」と痛みに耐える。



白石は今にも叫び出したい衝動を押し殺しながら、「ちゃんと寝とるんやで」ともう一度頭を撫でて部屋を後にした。




















妹の友香里が風邪を引いた時、良くお粥を作っている。
だから、白石は看病をすることに慣れていた。



細かく切った野菜をお粥の中に入れていく。
手際よく調理をする白石の元へ、「ほあら〜」とカルピンが近付いた。




白「お、カルピンやないか」



「ほあら〜」




すりすりと甘えたように膝に擦り寄ってくるカルピンを抱える。

「相変わらずぽてぽてやなー」と戯れていると、何やらじーっとした視線を感じた。



ばっと顔を向ければ、階段のところにりんが座っていて……




白「わ!りんちゃん、起きてて大丈夫なん?」



『…………』




うさぎのぬいぐるみを抱え、ぼーっとしている。



白石が慌てて駆け寄ると、カルピンとうーちゃん(ぬいぐるみの名前)をゆっくりした動作で取り替えた。


頭の上に?マークを浮かべる白石の前で、先程彼がしていたようにカルピンをぎゅーっと抱きしめた。




『えへへ、間接ぎゅー』



白「!!?」




ニパッと笑い、今度は『ぎゅー』と自分で言う。


腕の中のカルピンは暴れることなく、「ほあら〜」とりんの頬を舐めている。


白石はそんな2人(?)を見ながら、ふらぁと後退りした。



『??』



白「あとちょっとで出来るから待っとってな……」



『はぁい!』




ピシッと敬礼するりんは、小さい子供みたいだ。


胸を押さえながら覚束ない足取りで台所へ戻っていく白石を、りんは未だニコニコと見つめていた。
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