Short story
□奮闘!看病日記
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テスト終わりとは、実に快適である。
早くて2週間前から、遅くても前日には誰もが焦りと不安にかられ、テストが終わるまでは自分に余裕がなくなる。
だが、それが終われば圧倒的な開放感に包まれ、まるで何かに取り憑かれていた者が一気に取り祓われたような、そんな快感を感じることが出来る。
それはテストとゆう呪縛から開放された者しか味わえない、そう、この気持ちを言葉にするならば……
謙「んー絶頂(エクスタシー)〜♪」
小「ほんっっま絶頂☆」
ユ「せやせや絶頂〜!」
白「…俺の決め台詞をこれ見よがしに使おうとするんやないで?」
ここ、四天宝寺高校も昨日テストが終わり、テニス部の部員も開放感で満たされていた。
自分の口癖が他者に軽々しく使われていることが気に入らず、ユニフォーム姿へと着替えを済ませた白石は眉間に皺を寄せた。
千「皆そげん嬉しかね?」
謙「そりゃあもう!あの血眼になって徹夜で勉学に励む日々を考えたら…」
白「一夜漬けしてただけやん」
謙也の苦手とする科目…世界史のテストの前日、白石の携帯電話を通して夜な夜な泣き付いて来た彼は、記憶に新しい。
謙「う゛…ま、まぁ終わったことやし、ええやないか!」
小「そうよぉ蔵リン☆そ・れ・にっやっとりんちゃんに電話出来るんやないの〜」
小春の言葉に白石はピクッと反応した。
テスト期間に入ったことにりんも遠慮したのか、彼女から電話を掛けてくることはなかった。
白「(りんちゃん、元気やろか…)」
と言っても前に話したのはたったの2週間前……
だが彼、白石蔵ノ介は彼女を非常に溺愛している為、1分1秒たりともりんを想わなかった日などない。
(※テスト期間中は待受を見て我慢していました)
白「〜〜…っちょお電話してくる!」
小「ごゆっくり〜」
ユ「何かが切れたみたいやな…」
鞄の中から携帯電話を掴み取り、白石はダッと駆け出した。
テニスコートの裏まで走ると、乱れた息を落ち着かせながら大きな木に背中を預ける。
まだ開始前であっても、仮にも部活中である。
真面目な性格の白石は、りんの声を聞いたらすぐ部活に戻ろうと思っていた。
毎度の行為なので、電話帳からりんの名前を探すのは簡単で。
発信ボタンを押し、片耳にそれを当てた。
白「(まだ家やろか…)」
いや、もしかしたらもう学校に行っているかもしれない…
そんなことを考えている間にも、プルルル…と呼び出し音は続く。
白「……………」
だがタイミングが悪かったのか、中々出ない。
また改めて電話しようかと携帯電話を下げようとした。
その時ー…ピッと向こう側に繋がった。
白「!りんちゃん?」
《…………白石さんっ》
てっきり可愛らしいソプラノの声が応えてくれると思っていたので、白石は目を丸くした。
その声は期待していたものではなくて、予想外の人物だった。
白「え…と、越前くん?」
《白石さん……りんが、りんが!》
りんの双子の兄、リョーマらしからぬ焦った様子に、白石はただ事ではないと察した。
白「落ち着き、何があったか話してくれへん?」
内心白石もかなり焦っていたが、冷静に促す。
リョーマの話を聞くや否や、気付いた時は既に走り出していた。
《朝起きてりんの部屋行ったら…倒れてて》
《すごい熱で、寝かせたんですけど…まだ苦しそうで》
《皆出掛けてて居ないし、どうしたらいいのかわからなくなって、》
白「(っりんちゃん……待っててな!)」
事情を話し、顧問のオサムにお金を借りて、制服に着替えた白石は東京に向かうことにした。
授業のことなど、今の白石は気にしていられない。
代わりにりんの熱に浮かされ苦しむ姿が頭から離れないのだ。
新幹線や電車を乗り継ぎ、東京に着いたのは昼前だった。
越前宅まで無我夢中で走り、呼び鈴を待たずに勢い良くドアを開けた。
白「……越前くん!りんちゃんは、」
…と、その時見えたのは。
リョ「あれ、白石さん」
白「!??」
瞬間、ズザザザザと人の家にも関わらず、白石は思い切りずっこけてしまった。
流石、毎朝「掴みの門」で野球のユニフォームを着て滑り込んでいるだけはある。
白「(…な、なんちゅー冷静)」
必死になってかっ飛ばして来た自分が、馬鹿みたいだ。
リョーマは、床に伏せたまま脱力する白石を不思議そうに見つめた。
先程濡らしてきたタオルを水面器に掛け、「…大丈夫スか」と手を差し出す。
白「いや……予想してた状況とちゃうくて…びっくりしてもうて……りんちゃんは大丈夫なん?」
リョ「…熱は下がらないです。でも少し落ち着いてきて、」
やはり、高熱に犯されているらしい。
その言葉を聞いて心配になった白石は、りんの部屋までリョーマに案内して貰うことにした。
部屋のドアをノックし中に入るリョーマ。
その後に続いて、少し遠慮がちに白石も入った。
「りん、白石さん来たよ」と話し掛けるも、返事は返ってこなかった。
ベッドに寝込む彼女は酷く苦しそうに息をしていて、赤い頬を上下させていた。
白石は思わず立て膝をつき、そっと額に手を添えてみる。
白「(…っ滅茶苦茶熱いわ)」
初めて見るりんの弱った姿に、胸が締め付けられる思いがした。
リョーマは白石と同じように立て膝をつきながら、新しい濡れタオルをりんの額に乗っける。
白「…堪忍な、早よ来れんで。心細かったやろ」
その言葉にリョーマは少しだけ目を見開き、白石の掌が自分の頭に置かれていることに更に驚く。
大坂からすっ飛んで来てくれた白石は、りんが心配でいてもたってもいられなかったからだ。
それと同時に、電話から聞こえたリョーマの声が少し震えている気がしたから。
白石の拳が頭を撫でた瞬間、リョーマは瞳に薄く涙を滲ませたが、悟られないようにすぐに横を向いた。