Short story

□初恋
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それからりんちゃんは、りょまにいちゃについて話し始めた。

大概ようわからんかったけど、とにかくお兄さんが好きでしゃーないことはわかった。









『にいちゃ、お名前なんてゆーの?』




突然首を傾げて尋ねてくる。
…その切り替えしの早さには慣れへん。



そういや、まだ言っとらんかった。
出来れば言いたくなかったんやけどな。









「……くらのすけ」



『く、くらのしゅけ?』




ほら、驚いとる。


皆いつもそうやから別に気にせんけど、やっぱり…







(傷付く、わな)















『……かっこいい』




返ってきた言葉は想像もしてなかったもので、思わず目を見開いた。




「え?」



『あのね、昨日テレビで見たの!きもの着ててね、かっこ良かったの!』




着物ってことは、時代劇か何かやろか。


勢い良く話すりんちゃんの瞳はキラキラと輝いていて、

そんな視線で見つめられて気恥ずかしくなった俺は、フッと顔を逸らした。








「…おおきに…」






こんなん言われたの、初めてや。





もう一度りんちゃんに視線を戻せば、嬉しそうにニッコリと笑っていた。












大分時間も過ぎて来て、そろそろ…と立ち上がった時ふと疑問に思った。




「家、一人で帰れるか?」



『うん!お家近くにあるよ』




そっかとまた頭を撫でれば、はにかんだように笑う。

けど手を下ろすと、りんちゃんはしゅんと眉を下げて悲しい表情に変わった。




『くらにいちゃ、また会える?』




俺の服の裾を掴み、不安そうに尋ねてくる。




「うん。…いつか、な」




確信なんて、ないけれど。



そう言うとりんちゃんは、ぱあっと花が咲いたように笑い、小指を俺の前に差し出した。

首を傾げる俺に『じゃあ』と呟く。




『約束!』




一瞬戸惑った。けれど自身の小指を差し出された小さな指に絡めて、




「約束」




自然と口元を緩めていた。


『ゆーびきーりげーんまーん…』と歌い、りんちゃんは指を離した後顔を上げて、少し照れたような笑顔で俺を見た。


それに応えるように、優しく笑い返す。





とその時、遠くからりんちゃんの名前を呼ぶ声が微かに聞こえた。




『あ、りょまにいちゃだ!』




ぴくっと反応して猛ダッシュで掛けて行くりんちゃん。

一人の男の子に体当た…抱き付いた後、本当に嬉しそうに笑っていた。




(…そりゃそうやな)




俺だけに向けられていた笑顔ではなくて、きっと…お兄さんにはもっと色んな顔を見せるんやろうな。




その姿を瞳に映し、二人からゆっくりと背中を向け歩き出す。







絡めた小指が何だか温かくて、優しい気持ちになれた。


どうしてなんかは、わからんけど。









でも、はっきりとわかることは













あの小さくて幼い少女に、いつかまた会いたいということ。


























「きっと、あの時からやな…」




記憶を整理した後、独り言のようにぽつりと呟く。






俺の中で、ずっと残っていた女の子。



再会して、この気持ちが何なのか思い知った。




「りんちゃん、」




そして今俺の傍にいて、俺に笑いかけてくれる。



あの時と変わらない笑顔で。









いつか、伝えるから









「この猫、名前は?」



『あ、カルピンって言うんです。ヒマラヤンって言う種類の…』



「へぇ…かわええなぁー」








だから、待っとって









『猫好きなんですか?』









なぁ、知っとる?











君が傍で笑ってくれるだけで、












俺は幸せなんやで
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