Short story
□only this time
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忍足謙也の最近の悩み……親友の惚気話を延々と聞かされること。
白「でな、一緒にお笑いライブ見たんやけど…りんちゃんの笑った声が可愛すぎて、珍しく集中出来なかったんや」
謙「そーかそーか…て、さっきも聞いたから」
白「そうやった?りんちゃんもな、あのコンビ好きなんやって。今度DVD借りて観る約束してん」
紅「はいはい、良かったなー」
周囲から美形と言われる白石だが、彼女の話をする時は全身から花を飛ばし、きりっとした雰囲気は何処にも感じられない。
幼馴染みの実家であるお好み焼き屋で、今日も白石は嬉しそうに語っていた。
聞き慣れている謙也は普通にお好み焼きを食べ、店を手伝って働いている紅葉もやれやれと言った様子だ。
ガラッと店の戸が開くと、そこにはいつかの女子生徒がいた。
「あ、あれ、謙也…?」
謙「ん?お…ぉお」
女友達と来ていたらしく、お互いに目を丸くして驚く。
その友達の方は、白石を見て頬を赤く染めた。
紅「いらっしゃい!来てくれたん?」
「うん。ここのお好み焼き食べたくなってん」
「美味しいって友達の間でも有名なんやでー」
紅「ほんま?めっちゃ嬉しいわ」
はしゃぐ女子達の会話を、謙也は何処かそわそわしながら聞く。
「謙也、ちょっとええ?」とその子にさり気無く呼ばれ、2つ返事で店の外に出た。
「私な、謙也の好きな子わかったわ」
謙「え!?」
予想もしていなかったことを言われ、冷や汗がダラダラと流れる。
そんな謙也に、「ぷぷ」と女子は可笑しそうに笑った。
「一昨日、帰り道で偶然見てもうたんよ。後ろ姿やったからよう見えへんかったけど、謙也…めっちゃ楽しそうやったから」
謙「……そーか」
端からそんな風に見える自分が、嬉しいのか悲しいのか。
「私なっ」と女子は壁に背を預ける。
「告白した時、ぎょうさん理由あげたけど……謙也が笑っとる顔が一番好きやねん」
「せやから」と見つめられ、思わずドキリとした。
「謙也が一番自分らしくおれる場所で、笑って欲しい!」
謙也は目を見開き、思い出していた。
りんとたこ焼きを食べながら歩いた時、自然と笑っていたことを。
彼女が笑うだけで、心が温かくなる。その言動に癒され、ほっとする。
でも、もっと自分らしくいられる場所は……
謙「俺のこと好きになってくれて……ありがとうな」
謙也の顔をぽけっと見ていた女子は顔を赤く染め、「さ、先戻っとる///」とスタスタと店の中へ姿を消した。
勿論、鈍感な謙也は照れ隠しで言ったのだと気付けず、ただ首を傾げるだけだったが…
白「けーんやーお好み焼き冷めるでー」
紅「女タラシー早よ来い」
謙「ちょ、何やて紅葉!?」
一番大切な人達。失えない場所。
淡い気持ちにそっと蓋をするように、謙也は目を閉じた。