Short story

□only this time
4ページ/5ページ




忍足謙也の最近の悩み……親友の惚気話を延々と聞かされること。






白「でな、一緒にお笑いライブ見たんやけど…りんちゃんの笑った声が可愛すぎて、珍しく集中出来なかったんや」



謙「そーかそーか…て、さっきも聞いたから」



白「そうやった?りんちゃんもな、あのコンビ好きなんやって。今度DVD借りて観る約束してん」



紅「はいはい、良かったなー」




周囲から美形と言われる白石だが、彼女の話をする時は全身から花を飛ばし、きりっとした雰囲気は何処にも感じられない。



幼馴染みの実家であるお好み焼き屋で、今日も白石は嬉しそうに語っていた。


聞き慣れている謙也は普通にお好み焼きを食べ、店を手伝って働いている紅葉もやれやれと言った様子だ。





ガラッと店の戸が開くと、そこにはいつかの女子生徒がいた。




「あ、あれ、謙也…?」



謙「ん?お…ぉお」




女友達と来ていたらしく、お互いに目を丸くして驚く。

その友達の方は、白石を見て頬を赤く染めた。




紅「いらっしゃい!来てくれたん?」



「うん。ここのお好み焼き食べたくなってん」



「美味しいって友達の間でも有名なんやでー」



紅「ほんま?めっちゃ嬉しいわ」




はしゃぐ女子達の会話を、謙也は何処かそわそわしながら聞く。



「謙也、ちょっとええ?」とその子にさり気無く呼ばれ、2つ返事で店の外に出た。




「私な、謙也の好きな子わかったわ」



謙「え!?」




予想もしていなかったことを言われ、冷や汗がダラダラと流れる。


そんな謙也に、「ぷぷ」と女子は可笑しそうに笑った。




「一昨日、帰り道で偶然見てもうたんよ。後ろ姿やったからよう見えへんかったけど、謙也…めっちゃ楽しそうやったから」



謙「……そーか」




端からそんな風に見える自分が、嬉しいのか悲しいのか。



「私なっ」と女子は壁に背を預ける。




「告白した時、ぎょうさん理由あげたけど……謙也が笑っとる顔が一番好きやねん」




「せやから」と見つめられ、思わずドキリとした。




「謙也が一番自分らしくおれる場所で、笑って欲しい!」




謙也は目を見開き、思い出していた。




りんとたこ焼きを食べながら歩いた時、自然と笑っていたことを。



彼女が笑うだけで、心が温かくなる。その言動に癒され、ほっとする。







でも、もっと自分らしくいられる場所は……







謙「俺のこと好きになってくれて……ありがとうな」






謙也の顔をぽけっと見ていた女子は顔を赤く染め、「さ、先戻っとる///」とスタスタと店の中へ姿を消した。


勿論、鈍感な謙也は照れ隠しで言ったのだと気付けず、ただ首を傾げるだけだったが…






白「けーんやーお好み焼き冷めるでー」



紅「女タラシー早よ来い」



謙「ちょ、何やて紅葉!?」






一番大切な人達。失えない場所。





淡い気持ちにそっと蓋をするように、謙也は目を閉じた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ