Short story

□only this time
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トンッとプリントを丸めたもので頭を叩かれた思うたら、ニッコリ笑う白石が立っていた。


教室に残っていた数人の女子生徒が、キャーッと声を上げる。(俺の時はなかったけどな…!)




財「どないしたんです?」



白「ちょお先生に呼ばれてな。財前の教室覗いたら、謙也がおったから」



財「そんなら早よ引き取ってください」



謙「ちょ、光くん?」




ひどい、ひどすぎる…


何でこない辛口サディストがモテるんやろ。(優しいとこもあるけど)
やっぱあれか?顔か??




財「そのモテたい願望がいけないんちゃいます?」




え、そーいや、何でさっきから心の声聞こえとるん?


「全部口に出してましたけど」と言われ、俺は目が点になった。




白「謙也は結構ロマンチストやからなぁ」



財「彼女に夢見すぎっちゅーか、イベントに願望ありすぎゆーか…キモいっスわ」



謙「…泣いてええよな?」




イケメン2人に揃って溜め息を吐かれ、消えたくなる。


ちゅーか、そんなことゆうとるけど、こいつらやって十分夢見とる思うけどな。




謙「(……いや、ちゃうか)」




相手の女の子が、夢みたいな子なんや。




















柔らかなウェーブがかかった髪に、丸っこくて大きな目。
日を知らないような白い肌は、優しい雰囲気を一層際立たせる。


楽しそうにはしゃいだり、小さい子供のように泣いたり、かざらない女の子。






『謙也さんっ』






もし、天使がおるなら、こんな声なんやろうな。






…………ん?






謙「りんちゃん…!?」



『良かった、やっぱり謙也さんでした』




ニコニコと笑う顔を見たら、俺まで笑顔になっていた。


て、ちゃうからっ何で大阪に…?
俺が言いたいことを先に理解したりんちゃんは、『えっと』と説明した。




『お母さんが大阪に用事があって、私も今日から春休みなので一緒に来たんです』



謙「そーなんや。白石に会いに?」



『!は、はい…白石さんには明日会う約束してて、』




夕日に負けないくらい、顔を赤く染めるりんちゃん。



嬉しそうに微笑む顔が、今朝の白石と重なった。




謙「(ええなぁ…)」




恋人って、こんな感じなんやろうな。
お互い好き合って、同じくらい想い合って……


…若干、白石は愛が重い気ぃするけど。(ストーカー気質やし)



100枚は越えとる秘りんちゃんデータフォルダを見せられた時は、イケメンやからって許されないこともあるで!とツッコまずにはおれんかった。
りんちゃんやなかったら追放されるレベルやで、あれ…




『謙也さんは、今帰りですか?』



謙「そやで。うちも明日から休みやからな、今日は部活ないねん」




りんちゃんはお母さんと別行動していたらしく、待ち合わせ場所まで一緒に行くことにした。



並んで歩いとる最中、最近部活であったおもろいこととか、白石が書いとる学校新聞のこととかを話す。

そのどれも、りんちゃんは相槌をうちながら楽しそうに聞いていた。




『四天宝寺って、本当に楽しそうな学校ですよね』



謙「楽しそうやなくて、ほんまに楽しいで!お笑いライブなんて特に盛り上がるし、」



『実は私も、4月から四天宝寺に通おうと思って、お母さんが今手続きに行ってるんです』



謙「……………え、ええ!ほんまに!?』




あまりにも自然に言うもんやから、俺の身体は大袈裟に飛び退く。


「でも、白石何も言うてへんかったで?」としつこく質問してまうと、りんちゃんはクスリと笑った。




『ごめんなさい…冗談です』




えへへと悪戯っこのように笑うりんちゃんに、肩の力が抜けていく。



途端に、カァァと顔に熱が溜まるもんやから、慌てて右手で口元を覆った。




謙「(俺…しょーもな、)」




聞かされた瞬間、りんちゃんがうちの学校に来てくれたら楽しいやろうなって、想像した。



りんちゃんが皆の弁当作ってきてくれて、昼休み屋上で食べたりとか…











白「…財前、その口に咥えとる卵焼きは、りんちゃんが俺の(←強調)為に作ってきてくれたやつやないか?」



財「あ、そうなんスか?知りませんでしたわ」




きっと楽しい学園生活が……




白「あと、いつも左隣に座っとるのは気のせいかな?」



財「たまたまっスわ。部長かて、膝の間に座らせるの止めて貰えません?飯が不味くなるんで」



『あ、あの…っ』



謙「ちょ、りんちゃん腕取れるから……っ2人共聞いとる!?ねぇ!」




楽しい……




「あんた、白石くんの彼女やからって調子のってんやないの?」



「ほんまうざいねん、どっか消えろや!」



『…っっ』



……………




白「ハッりんちゃんが俺を呼んどる気ぃする…!」



謙「えっ」



財「部長、準備出来てるんで」



謙「え、準備て…その銃何?光くん、それ本物やないよな?」



金「白石〜こっちもすぐ行けるでぇ!」



謙「金ちゃん!?あきらか身体より大きいそのカマは何に使うん??」












謙「ど、どっと疲れが………」



『ええ!だ、大丈夫ですか?』



謙「おん…俺やなくてりんちゃんの身の方が危ないんやけどな…(色んな意味で)」



『?へ?』




楽しい反面、俺のツッコミスキルが上がりそうや…



たこ焼き屋の前を通った時、ぐぅ〜とお腹の音が鳴り響く。

隣を見ると、茹で蛸みたいに真っ赤な顔のりんちゃん。




謙「…たこ焼き食べる?」



『!』




パァッと顔を輝かせる姿を見て、「オバチャンたこ焼き2つ」と小銭を出す。


りんちゃんは最後まで自分の分を払うてきかへんかったけど、諦めてそれを受け取った。




フーフー息を吹き掛けて冷ます姿が、クラスメートの奴が飼っとるハムスターと重なる。


食べ慣れていても、出来立てのたこ焼きはめっちゃ上手い。

りんちゃんも同じ感想やったみたいで、食べた瞬間幸せそうに頬を緩めた。




『あ、そうでしたっ』



謙「?」




肩に掛けていたポシェットを探るのを、たこ焼きを食べながら見つめる。



『これ』と差し出したのは、可愛くラッピングされた小包。




『少し早いけど…謙也さんへ、誕生日プレゼントです!』



謙「…………へ……」




ニコニコ笑うりんちゃんと、その包みを繰り返し交互に見てまう。



突然のことに瞬きさえも忘れて呆ける俺は、相当アホ面やったんとちゃうかな。

たこ焼きを持つ手が傾くと、『わわ…っ』とりんちゃんが慌てて押さえてくれた。




『……あの、迷惑でしたか?』



謙「や、迷惑とかやなくて…!ただ、そんなん貰えると思うてへんかったから、」




やって、俺はあげてへんから。
白石に悪いし、何もせん方がええと思うたから。






……せやけど、今だけ





今だけは、







気持ちに、素直に従ってええやろか。












まだ不安そうにしとるりんちゃんから、手を伸ばして受け取る。






謙「おおきに」






たった一言だけで、ほんまに嬉しそうに…ふわりと笑った。




『私、皆といると、いつもあっという間に時間が過ぎていく気がするんです。だから、皆と同じ学校だったらいいなって…本当に思ったんですよ』




りんちゃんは素直やから、ほんまに思うてくれてるってわかる。
せやけど、つい「青学が聞いたら泣くで?」と意地悪に言うてまうと、『ど、どうしましょう…』と本気で悩み始めてしまった。


…俺も財前のこと言えへんなぁ。




『あ、それじゃあ、ここで待ち合わせてるので…』



謙「おん。白石にもよろしく言うといてや」



『はいっ』




背中を向け、別の方向に歩き出す。




順調に歩いていた足が、ふと立ち止まった。






今日は……ほんまにどうかしとる。






顔と足を反転させるのが、スローモーションのように遅く感じた。



突然振り返った俺に、りんちゃんはキョトンと目を丸くして。






謙「プレゼント……ほんまにありがとうっ」






渡された包みを軽く振ると、りんちゃんはすぐに笑顔になった。



手を振る姿を瞳に映した後、俺はさっきよりも早足で反対の道を歩き出す。




途中、包みを開けると、中からは様々な形をした消しゴム。
ショートケーキ、マカロン、えらい可愛らしいものから、恐竜やイグアナの形をしたものまで……


俺が変な形の消しゴム集めとるの、白石から聞いたんやろか?




謙「(ごめん、嘘や…)」




ほんまは、あの子が同じ学校やなくて…ほっとしとる。



もし、毎日顔合わせてたら、絶対。






謙「(こんな程度じゃ……すまへんやろ)」






今やって、顔が緩むのを必死に堪えとるのに。





振り返ったのは、俺だけに向けられた笑顔が見たかったからで。







俺の顔と同じくらい赤く染まった夕日の中を、自慢の足で駆け抜けた。
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