beloved

□ひとりじめ
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*白石side*



まさか、ここまで本気やなんて思うてなかった。






白「……これで接客するん?」




無理やろ、無理ありすぎやろ!


女装喫茶はテニス部の定番化しとるし、まぁ百歩譲って良しとしたんやけど…今年は小春の気迫が半端なく。


ユウジお手製のメイド服を着て(無理矢理)エクステ?言うやつを付け(無理矢理)メイクもされた俺は、勿論ええ気分な訳がない。



小さい頃、姉ちゃんに良く化粧されて遊ばれとったなぁ…と思い出したくない記憶まで蘇ってきた。




小「当たり前やないのぉ、蔵リンかわええわ〜萌え☆」



ユ「浮気かぁ小春!」



小「ユウくんもかわええわよ」



ユ「こ、小春…///」




おっ始めたコントを無視し、俺以上に不機嫌な顔をした男に視線を向けた。


謙也が何とか説得しチラシ作りを手伝わせとるみたいやけど、あからさまに嫌々なんが伝わってくる。




財「…部長も早よ手伝って下さいよ。さっさと終らせたいんで」




"おいでやすご主人様"と書かれた文字の周りを、赤いマーカーでハートに囲む財前。
ギギギ…と強い力が込められ、歪な形になっとるけど。




健「そういや白石、今日りんちゃん来るんやろ?」



白「おん。12時に待ち合わせとる…って、やけに似合うてるな」




メイド服やなく、黒いベストを着てバーテンダーみたいな格好の小石川。

俺もそっちが良かったなと染々思いながら、腕時計を確認した。



テニス部の出し物は一応午前中までやから、それまでには羞恥心この上無い格好にも開放されとるはず。


念の為、待ち合わせ時間を遅らせといて良かったわ。




…りんちゃんにこないな格好、見せられるわけないもんな。




金「う゛ー白石っ髪絡まったわぁ」




高い位置で髪を結んでいた金ちゃんは、無理に取ろうとしたのかゴムが変な絡まり方をしとった。




白「あー金ちゃん、無理に引っ張ったらアカンで」



金「ワイ痛いの嫌や、結びたくあらへん!白石みたいに下ろしてええやんか!」




いきなしスカートを捲り上げる金ちゃんに、「金太郎さんそらアカンよ…!」と小春が慌てて止めに入る。


溜め息を吐きつつ左手の包帯に手を掛けたら、直ぐに金ちゃんは大人しゅうなった。




せやけど俺も、ほんまは金ちゃんみたいに駄々を捏ねたい気分や。




いつでもな、りんちゃんの前では男らしくおりたいて思う。




りんちゃんは優しい子やし考えにくいけど、もしな、もしこの姿を見て……






『私、白石さんはもっとちゃんとした人だと思ってました






…アレやな、生きていける自信がない。






やから見られた時は、嫌われてもしょうがない思うたのに。






『私、あ、会いたかったから』



『早く早く白石さんに会いたかったから……だから、待てなくて、』






りんちゃんはいつも、予想のずっと先をいってくれるから。





俺は…嬉しなるんや。



















『すごい…色んなお店があるんですねっ』




あれから制服に着替え、片付けは任せたと言う皆の言葉に甘えて、りんちゃんと教室を回ることにした。



四天宝寺ならではのユニークな店を見つめながら、キラキラ目を輝かせるりんちゃん。


お祭りもやけど、こうゆう賑やかな場所が好きなんやなぁと自然と口元が綻ぶ。




白「そのカーディガンかわええな。よう似合うてる」



『!あ、ありがとうございます///』




桜色のカーディガンがりんちゃんらしい。
(※何着ても似合うけど)



顔を赤くして嬉しそうに微笑んだりんちゃんは、隣で歩く俺をチラチラと見上げてきた。




『白石さんも、あの、ブレザー似合ってます…っ』



白「そうか?ありがとう」



『白石さん制服だから私も制服にしなきゃって思って、』



白「へ、何で?」




首を傾げると、『な、何でって…』とりんちゃんは更に顔を真っ赤に染める。


ようわからんけど必死に何かを伝えようとしとる姿が可愛くて、じっと見守るように待っとったら、やがてその小さな唇が動いた。




『制服デートみたいで、嬉しいからっ』




そう言って嬉しそうに笑うりんちゃんに見上げられてまえば、俺は、




白「…また、なんちゅーことを……」



『??』




ボソリと呟いた声は聞こえてないのか、未だ頬を染めながらニコニコ微笑んどるし。
俺は俺で赤なった顔を隠すように、片手で半分覆った。




越前くんはすごいわ。

この子と四六時中一緒におったら、心臓がいくつあっても足りへんのに。



込み上げてくるものを何とか落ち着かせ、隣で揺れる小さな手を自身の掌で包む。
それは俺よりずっと温かかった。




白「制服デート、やろ?」



『……!///』




りんちゃんの瞳を真っ直ぐ見て微笑むと、直ぐに逸らされる。

ギュッと強く握ったら更に慌てる姿がおもろい。




白「(…俺ばっかりこうも、悔しいもんな)」




自分の一挙一動が俺を掻き乱しとることに、りんちゃんは気付いてない。


りんちゃんに対しては嫉妬深くて、我が儘で、独占欲が強いことも…




今やって、廊下を擦れ違う度彼女を見つめる男子生徒が少し…どころやない、かなり気に食わない。




「あ、白石くん!後で教室見に行ってもええ?」



「うちらお腹空いちゃって」



白「ははっええよ、まけといたる」




隣のクラスの女の子やな、確か。
チラリと隣を見ると、直ぐに視線が絡み合った。




『白石さん、友達がいっぱいで、羨ましいです』




一瞬、胸が痛なった。




白「そんなことあらへんよ」




アホか、俺。



りんちゃんがヤキモチ妬いてくれへんことが、悲しいなんて。




真っ赤になりながらも、思っとることは伝えてくれるし、一生懸命応えようとしてくれることもちゃんとわかっとる。



好かれとるって自信もある。




せやけど、りんちゃんが俺に甘えてきたり、我が儘を言ったことは一度もない。


苦手なんは知っとるし、りんちゃんはほんまに良い子やから。寧ろ良い子すぎるくらいや。




白「(俺が、子供なんかな…?)」




直ぐに嫉妬してそれを抑え切れへんのは、俺だけなんかな。




りんちゃんは…ちゃうんやろうか。






『……白石さん?』




いつの間にか、繋いだ手を強く握っていた。
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